詰め込み部屋
癒えない傷があってもいい《ロイアイ》FA
FAより、増田と鷹目。明るくないが愛はある。
東方司令部ロイ・マスタングの執務室。書類を届け、退室しようとした時だった。
「中尉」
「どうされました?」
大佐の声に振り返る。
「明後日の日曜日、暇をとってはどうだ?」
「あなたがサボるから出来ません」
上司の心遣いに対してはいささか冷淡な返答だが、事実である。しかし大佐は受け流し、緩く笑った。
「何、心配ない。私も休むからな」
「護衛ということですか」
六人しかいないマスタング組の内二人も休むなんて。しかも中央への異動を目前に控えたこの時期に。それほど大事な用事なのだろうか。
「魅力的な恋人をデートに誘っているだけさ」
なんて軽い口なのかしら。だが我等が大佐は、そして私の恋人は、言い出したら八割方聞かない男である。
ふう、と一つため息。
「分かりました、ご一緒します」
一切表情を崩さず、私は敬礼して今度こそ執務室を出た。
―――――――――――
《一時に迎えに行かせてもらうよ》
宣言通り、一時に鳴るチャイム。ハヤテ号が吠えている。全く、動物に嫌われる人だこと。
「やあ」
「ご足労感謝します、大佐」
「んー?」
「…こんにちは、マスタングさん」
まぁ、合格。
微笑んだ顔はやはり童顔。ヒゲを真剣に検討したほうがいいかもしれない。
この人は昔から、女性を引っかけるのに階級を晒すのをいとわないくせに、私と歩く時は伏せさせる。私のこともリザと呼ぶ。
昔のように。
「さぁリザ、行きたいところはあるかい?お兄さんが連れていってあげようじゃないか」
「お兄さんというお歳ですか」
「む、君もいつか30を過ぎる時が来るんだぞ」
あぁ、この人に惚れている女性達が聞いたら耳を疑うでしょうね。子供っぽく笑って拗ねて、恋人に年齢の話題を振るような人間だと、知っているのは私の他に何人いるかしら。
「はいはい、申し訳ありません。
司令部の近くに写真館が出来たそうですが、いかがですか」
「ああ、工事していると思ったら写真館になったのか。よし、行こう」
上機嫌な大佐にエスコートされ、車に乗る。無駄のない動作に女性経験が覗けてしまって、素直に感心した。伊達に遊んでなかったのね。
「流石ですね」
「何がだい」
「いえ、何でも」
車の中ではあの軽い口が最大限に動き回っている。元来女性はお喋りだと言うが、だったらこの男は突然変異か、後天性の能力なのか。どちらにしろ、楽しそうに話す姿は嫌いではない。
「リザ、機嫌がいいね」
「どうでしょう」
聡い上官を適当にはぐらかし、見えてきた写真館に目を向けた。
そこは写真スタジオと展示場が一つの建物になったものだった。大佐と連れ立って白黒の世界に浸る。
「リザ、少し一人で見てきてもいいかい」
「ええ、どうぞ」
急にかけられた声に答え、次の門で意図的に曲がった。
しばらくうろつき、アメストリスの風景に思いを馳せる。
中央の繁華街、北の山々、東の牧場、そしてイシュヴァール地区。各地で内乱の起こるこの国で、自然のなんと強大なことか。
小さな館内をあらかた見終わると、大佐と別れた角に戻る。大佐が使った道だけは、まだ見ていない。すると、そこには大佐の姿。
「マスタングさん、まだこちらに?」
「ん、ああ」
一体何をそこまで。大佐の見ていた写真をのぞきこむ。
「…あ」
「すまない、君の目には毒だったかな」
そこにあったのは、背中に大きな傷を持った女性の写真。上半身は何も纏っていないが、下は軍服を着ていた。
「とても、綺麗だと思います」
後ろ姿だが、しっかりと上がった顔はどこまでも遠くを見ている。短い金髪に、殲滅戦時の自分がちらついた。ぐらりと揺らぎそうになった私に比べ、彼女はその足で毅然と立っていた。薄く筋肉の付いた身体は、今も戦場を駆けているのかもしれない。
「強くなったね、小さなリザ」
いつの間にか背後に回っていた大佐は、私の背を隠すように私の肩を抱いた。
一瞬傷んだ背は、写真のせいかこの人か。私は少しだけ体重を後ろにかける。
「あなたを守ると決めましたから」
「それは頼もしいな」
やはり歳より幼い顔で微笑んだ大佐。先に唇を寄せたのは、私の方だったかもしれない。
久しぶりにただのスーツを着た大佐に、この背を守っていけますようにと、信じてもいない神に祈ってみた。
(例えば地獄の業火に焼かれたとして)(それがあなたの焔であるならば)
******
いち様リク《ロイアイ1日休暇》デート編。
たまにはまったり、普通の恋人同士のように。
白黒の情景が浮かぶようなシンプルな文を模索していきたい。
全ての戦う女性に乾杯!!
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