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詰め込み部屋
悔いのない一生でした《バオリ》FA
いち様と私以外に需要はないであろう、北の熊大尉と女王様。ネタバレ注意!!





腹から血の流れる感覚。ああ、ここが潮時なのだと、受け入れた。不思議と取り乱す気分にはならない。後のことは他の奴らがやるだろうし、心配はしていない。
ただひとつ、小さな未練があるとすれば、あの人の側で、あの人の盾になって死ねなかったことか。いつも自分の前を歩く小柄な背は、誰より強く誰より優しかった。最後まであの人の部下として戦ったことは俺の誇りだ。だからこそ命を落とす時は、彼女を守って死にたいと思っていたのに。

最後にゆっくり話したのは、砦の上だった。壊れた時計のおかげでくたばり損なったすぐ後だ。
穏やかな風に長い金髪を揺らしながら、落ちそうな程ぎりぎりの所に腰掛け、山々を眺めていた。
くだらない話をしていると、集団が砦に近付いてくるのが見えた。

「何か来ましたな」
「…バッカニア」
「はい」
「私は、白と黒の山々が、ここで一番美しいと思っていた」

余所者の訪問を意に介さないような彼女の言葉。俺は黙って続きを聞いた。

「白黒でない世界も、案外悪くないもんだ」
「そうですか」

冬晴れの空を見上げ、足を組み換えつつ、彼女は言った。俺には、それで十分だった。十分、幸せだった。

「バッカニア」
「はい」
「これから、荒れるぞ」
「はい」
「死ぬなとは言わん」
「はい」
「出来るだけ生き残れ」
「…アイ・マム」

それだけ言った俺を、彼女は今日初めてちらりと横目で見遣り、心なしか微笑んだ。

貴女も、どうかご無事で。
先陣を切り戦場に向かうボスに送るには能天気な言葉で、口には出さなかった。ただ、人生を捧げた女の見送りには、これくらいでいいんじゃないかと、ふと思った。





《出来るだけ生き残れ》

それは、死ねと言われるより、死ぬなと言われるより、優しくて残酷な命令だった。もし死ぬなと言われて死んだら、命令違反だと俺は思うだろう。彼女へ誓った忠誠に傷が付く。だから彼女は死ぬなと言わない。しかしその優しさは、彼女を守れなかった俺に深くのしかかる。申し訳ない、ボス。俺はここまでだ。

あの人は、北の砦に帰った後、どうするだろうか。今まで通り、北の国境線を引くのだろう。しかしその毎日の中で、時々でいい。ふとブリッグズの青い空を見ることがあったなら。そして、たまにでいい。俺のことを思い出してくれたなら。

身体も起こせない状態で見た空は、爆煙に煤けたつまらない色をしていた。

あの人には、白黒の大地と青い空が似合う。

そして自分は一足先に、少しだけ高い空に昇ろう。彼女が見上げる空に行けるなら、悪くない。笑いは、自然に溢れた。
せめてもの礼儀で、上手く動かない腕を持ち上げ敬礼する。

瞼も上がらない目に浮かぶのは、気高く小さく、偉大な後ろ姿。その姿は少し首を逸らし、空を見上げていた。

ああまったく、いい人生だった。


「さらばだ同士
ブリッグズの峰よりすこし高い所へ」

先に…行ってるぞ…






(そして出来るなら一度だけ)(俺の為に泣いて下さい)



******
いち様と二人だけでバオリ企画。《空を見上げるボス》の大尉サイドでした。
最期のあの笑顔は、大尉が懸命に生きた証だと思います。天晴れな最期に拍手を送りたい。
バッカニア大尉よ、永遠に。

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