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詰め込み部屋
悔いのないよう生きるだけ《バオリ》FA
私といち様以外の需要がまったく見えてこない北の熊大尉と女王様。ネタバレありです、注意!!





マスタングとの共同戦線が終わり、アメストリスは一応平穏を迎えた。失ったものはあまりに大きいが、彼らは軍人として誇りを持って戦ったのだ。

「マイルズ」
「はい」
「少し上に登ってくる」
「職務怠慢ですか」
「見逃せよ」

マイルズは呆れた顔で色眼鏡を外し、目をつぶった。私は急ぐでもなく、砦の上を目指す。

何となく、空が見たい気分だった。




「いつ見ても白黒ではっきりとした景色だ」

ブリッグズを眺めながら呟く。

「なあ、バッカニア」

白黒だけの世界ではないと、教えてくれた奴の名を呼んでみた。返事がないのは分かっている。思えばあれが最後の、奴との会話らしい会話だった。
くだらない話の途中で、中央軍が砦にやって来た。





「何か来ましたな」
「…バッカニア」
「はい」
「私は、白と黒の山々が、ここで一番美しいと思っていた」

しばらくこいつともお別れだと思ったら、少し感傷的なことを言ってもいいかと、口を開いた。

「白黒でない世界も、案外悪くないもんだ」
「そうですか」

少し上を見ながら言ってみる。奴が、笑ったような気がした。
それでいい。私にはそれで、十分だった。

「バッカニア」
「はい」
「これから、荒れるぞ」
「はい」
「死ぬなとは言わん」
「はい」
「出来るだけ生き残れ」
「…アイ・マム」

ちらりと見えた奴の表情は、思った通りの快活な笑顔だった。

どうか無事で。

奴を戦場に叩き込む私が言えたことではなかった。だが背中を預けた男と別れるのには、こんなものかもしれないと、ふと思った。



《出来るだけ生き残れ》

本当は、死ぬなと言いたかった。ブリッグズ兵全員に、死なないでくれと言って回りたかった。だが我らは軍人だ。子供まで勇敢に戦ったこの戦争で、死にたくないと逃げる者がいなかったことはブリッグズの誇りだった。

空を見上げる。中央と何も変わらないはずなのに、澄んで綺麗な青に見えた。私にはここが合っている。そして多分、奴にも。
見上げる先に奴がいるとしたら、私がいつまでもシケた顔をしている訳にはいかないだろう。試しに少し、笑ってみた。
失ったものはあまりに大きい。だが奴が見守っているというなら、私はいつまでも前を向いていよう。この戦争で失った命全てに報いるように、前だけを見ていよう。
ただ、少しだけ疲れた時は、上を見てもいいだろうか。この空を眺めてもいいだろうか。思い出しても、いいだろうか。

空は相変わらず、どこまでも青い。そう言えば晴れの似合う豪快な男だったと、また笑う。

「バッカニア、そこから見えるアメストリスはどうだ」

空を見つめる目から頬を伝って、涙が軍服を少し濡らした。




(笑って逝ったお前は)(私の涙を許してくれるかな)


******
いち様と二人だけでバオリ企画。お題は《空を見上げるボス》で、オリヴィエサイドでした。
軍人という死と隣り合わせの仕事、みんな死別を覚悟しているのでしょう。あとは残された人々が、思い出すことしか出来ないと思います。

バッカニア大尉よ、永遠に。

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