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詰め込み部屋
特製ベッド《カイメイ》歌機械

あーあ、まぁ歌いきれたからいいか。

遠退きかける意識の中で、何とはなしに考えた。


《特製ベッド》



寒気がする。
いやいやこの暑いのにそんな馬鹿な。
喉が乾燥する。
いやいやこの湿度は気管に優しいのが唯一の利点なのに。

結論。
こりゃ、夏風邪引いたわね。

小さなため息を吐きながら、ここ最近の忙しさを後悔する。
それを聞いたカイトが心配そうな目を向けた。

「めーちゃん、どうかした?」

夏風邪と言っても、その程度で支障を出したくない。私は不安げなカイトにしっかりと微笑んでみせた。

「大丈夫よ、少し待ち時間が長いと思っただけ」

「…そっか、ならいいんだ」

カイトも笑みを返す。その時ちょうどお呼びがかかったので、二人並んで録音室に入った。



────────────


やばい。頭がクラクラしてきた。両足を着いている感覚がまるでない。目を瞑っていると平衡感覚を失う。

大丈夫、大丈夫、だいじょうぶ。

私は歌い続けた。

「OK!流石だね、今日はもう終わりだ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございますっ」

よし、よしっ。何とか歌いきった。大切なデュエット、久しぶりのカイトとの曲。
思わず息を吐いた瞬間、世界が反転する。

あーあ、まぁ歌いきれたからいいか。

そのまま身体が床に崩れるのも待たず、私は意識を手放した。



────────────


うーん、なんだか寝心地が悪い。ベッドが固いわね、なんでかしら。
でも右手の温かさは悪くないわ。

そんなことを考えながら薄く目を開くと、とんでもなく泣きそうなカイトが視界に入った。

「カイト、どうしたのそんな顔して」

とっさに目の前の青い髪を撫でようとして、右手をカイトの両手に包まれていることに気付く。冷房の効いた室内にはちょうどいい温かさに、私は手を伸ばすのを諦めた。

「めーちゃん、なんでここに寝てるか分かってる?」
ゆっくりと口を開いたカイトの言葉に、周囲を見渡す。

楽屋。私が寝ているのはソファ。枕代わりに青のマフラー。心配そうに私の手を握るカイト。

ああ!!

「そっか私倒れたんだっけ。もしかしてカイトが運んでくれたの?ごめんね、ありがとう」

思わず苦笑いを向けたが、カイトは笑わない。
真っ直ぐな目でずいっと睨まれて、思わずたじろいだ。

「めーちゃん、僕らの仕事はなんですか」

「歌うこと、です」

カイトのあまりの真剣さに、こちらも敬語。

「最高の歌を歌うには、体調も大事だと思いませんか」

「思い、ます」

「じゃあなんで隠そうとしたの!!めーちゃんが大丈夫って言うから何も言わなかったけどね、流石の僕も気付いたよ!?OKが出るまで歌い続けたかと思ったら倒れるし、僕がどれだけ心配したか…」

普段穏やかなカイトが、目の前で私相手に本気で怒っている。今回は私が悪かったようだ。
でも呆れられるのは釈然としない。それはささやかな姉の意地であり、ささやかな恋人の願いだった。

「ごめんカイト、でも最近仕事が…」

案外広い手のひらに口を塞がれて、言葉は最後まで続かない。目で不満を訴えるが、カイトは一切気にした様子もなく口を開いた。

「言い訳は却下、もう一眠りして下さい」

ちょっと経ったら起こすよ。
ようやく微笑んだカイト。また私の手を握り直す。

うーん、ちょっと寝心地は悪いんだけど。年上の威厳もあったもんじゃないけど。
もう少しだけ、見守られたまま寝ていたい。

私は一度だけ握られた手に力を入れると、すぐにまた眠りに落ちた。





(ふわふわあったか)
(私のための、)


(カイト特製しあわせベッド)



******
いち様リク《カイメイ》。
前書いたのとだだかぶりである。
日常とか歌以外のやつは書けないのか!!というツッコミは自分でしてしまったので、どうぞ心の奥にしまってやって下さい。

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あきゅろす。
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