NL部屋
機密事項《順リコ》
ちょっと糖度控えめ。
じゃあ、秘密。な話。
それは衝動というか、欲情というか。
しなければならないと、思ったのだ。
たった一瞬、俺は神に背いた。そんなに大したことじゃないが、気分的にはまさに背徳。俺は少しだけ身を引き、断罪を待った。
彼女は何かが残っているように唇に指を当てて口を開く。
「どうしたの、急に」
「ごめん、殴りたきゃ殴ってくれ」
その方が俺の頭も冷えるかも。
なんて馬鹿なことを考える時に限って彼女は殴ってくれない。それ自体が罰であるように。
「本当に謝る気あるのかしら」
「あるよ、信じろ」
「嘘。
もっとしたいって顔に書いてあるわ」
それが本当だとしたら、なんで彼女は俺の頬に手を伸ばすのだろうか。その手に感じた馬鹿な俺に、咬みつかれるかもしれないのに。
「最低」
「その割にえらく冷静だな」
暴言も受け入れよう。それだけのことをした自覚は、残念ながらある。
「近付かれた時、されるかもって思ったし。
されても良いかもって、思ったし」
「強烈な告白」
「好きに取りなさいよ」
ああ、今までだって結構な時間を一緒に過ごしたのに。もう、一秒だって離れていられない気でいる。
俺は彼女を抱き締めた。
「ダイスキ」
「知ってるわ」
俺は腕の力を強めた。
痛い、と穏やかな声が聞こえても離さない、離せない。
「大好きなんだ」
「だから知ってる」
私もよ。
その一言が聞きたくて繰り返したのだと、ばれているのかいないのか。ご褒美のように響いたそれは、前者のような気がして落ち着かない。
「それにしても、主将が一番に約束の意味無くなっちゃったわね」
つまらなそうな声に腕を緩めて彼女を伺えば、いかにも不満げに唇を尖らせていた。
「あ?」
「そうでしょう?今更誰に告白するの?」
「ああ、なるほど」
確かに、あのふざけた公約は元々相手がいればなんの意味もない。
俺はそれで一向に構わないのだが、彼女や部員達からすればいささか興醒めといったところか。
それなら。
「じゃあ、秘密」
「うん??」
「今日あったことも、これからのことも。全部、秘密」
彼女が一瞬、悪戯っぽく笑った気がした。
「誰にも?」
「誰にも」
「秘密?」
「秘密」
彼女は今度こそ、声を上げて笑った。
そして笑いが治まった後、夢でも見ているような晴れやかな顔で呟くのだ。
「素敵」
その後のキスはどっちから仕掛けたのかなんて、覚えていられなかった。飢えたケモノはきっとこんな気分なんだろう。欲しいものしか、見えない。
甘く痺れる思考の端で、ふと考えた。
素敵、か。確かに。
隠すと決めたこの関係は、なかなかどうして盛り上がる。
やっと離した唇で、彼女の耳にもう一度愛を流し込んだ。
(キミツジコウレベルエックス)
******
目指したのは可愛くない順リコ、動きのない順リコ、そっけない甘さ。
書いたことのないジャンルというのは、なかなか書けないジャンルでした。
お花畑脳には敷居が高かったようだぜ…!!
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