梓瀞学園 3 「飯食いに行かねー?」 すると、社は睨む目を細めた。 (嫌悪? いや、違うな。これは……) 「……大勢のトコで食うの、嫌いか?」 弱く笑い掛けると、社は驚いた様にその目を見開いた。 (図星) 「そんなに、……」 言い掛けて、口を閉じた。 “そんなに人が怖いか?” そんな事、訊いてほしくないだろう。 人が最も恐れるものは、人だ。 人には言葉がある。 それは、時に悪心を孕ませた凶器になって、相手や自分を傷付ける。 きっと生きている内、自分に掛けてもらえる言葉は、そんな哀しい位鋭く尖った、凶器の様な言葉ばかりなのかもしれない。 そして自分も、自分を守るために、相手を傷付ける言葉ばかり、吐くのかもしれない。 でも、 それだけじゃない。 ポッ……と。 ロウソクに火が灯る様に。 ふとした瞬間、暖かくて優しい言葉を、掛けてくれる人だっているんだ。 でも社は、嫌な言葉とか優しい言葉とか以前に、人から掛けられる言葉を恐れて、耳を塞いでいるように感じる。 言葉が雨だとするなら、社は黒い傘を差し、濡れる事を恐れ、必死に体を縮こまらせている、そんな感じ。 確かに雨に濡れなければ、寒くないし、風邪も引かないかもしれない。 耳を塞いでいれば、自分を傷付ける言葉を、聞かなくて済むかもしれない。 じゃあお前は、一生その傘を差し続けるのか? 暖かく優しい言葉さえ、聞かないつもりでいるのか? 「……何?」 言葉を切ったきり、黙り込んでしまった俺を、社は鋭い眼差しで、訝しむように見つめる。 「あ! じゃあ俺、下のコンビニで何か買ってくるよ。一緒にリビングで食おーぜ?」 な?、と笑うと、社は眉間を寄せたまま、鋭さをなくした瞳で俺を見つめる。 (どうしていいか、困ってんな) 俺は小さく笑い、待ってろよと社の肩を叩き、玄関へと向かった。 心の傷は別として、社は感情を、余り表情では表さないみたいだ。 苦手なのか、好きじゃないのか。性格か? その分、瞳で感情を表してる。 本人は無自覚だろうけど。 (なんだか吾枉に似てるな) でも少しつり目だから、無表情でも怒っている様に見える。 その点は、いつも眉間に皺を寄せて、不機嫌そうな顔に見える浬にそっくり。 [*BACk][NEXt#] [戻る] |