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梓瀞学園
3


「きゃー笑ったぁ!」
「お2人が並んでいると絵になるぅ」
「あれぜってーネコだろっ」
「声掛けちゃおっか?」
「行ってみる?」


キャイキャイと騒ぐそいつ等に、俺はニッコリと笑い掛けてやる。

すると、そいつ等は一斉に顔を真っ赤にして固まり、次には一目散に逃げて行った。


「そんな愛想振り撒かないで、放っておきなよ」

「こっちに来そうだったから、蹴散らしたんだよ」


外を歩けば頻繁に、男にしつこくナンパされる俺は、蹴散らす方法が2つある事を知っている。


1つは、男らしく男の急所を蹴る。

もう1つは、今みたいにニッコリ笑ってやる。
するとああやって、顔を真っ赤にして逃げていく。


でも相手によってどっちを使うかは、ちゃんと見定めなくちゃいけない。

それを怠り、適当にニッコリ笑って誤魔化したら、更にしつこく迫られた事があるからだ。


あと、いくら? と、あからさまに身体目当てで声を掛けてくる変態オヤジは、“殴る”の選択肢のみだ。


(我ながら、何とも悲しい知識を身に付けたもんだ)

「あしらい方慣れてるね? と言うか男に──」

「ウルセェぞテメェっ! 1回叩きゃあ分かるアホっ!!」


壊れんばかりに勢いよく窓口を開け、管理人であろう人がそう叫んだ。


今気付いたが、吏麻先輩はここに来てから、俺と喋ってる間も、ずっと窓口を叩きっぱなしだった。


「ああ、すみません」

(先ぱーい、笑顔黒いでーす)


絶対わざとだ。


「……チッ、箕子部か。なんの用ぉだ──淹?」


初対面の筈が、管理人は顔見知りの様に俺の名前を呼ぶ。


「……あ、泰斗さん」


顔見知りだった。




是句 泰斗(ゼク タイト)。
俺の父親、つまり瀧の同級生で、俺も昔から何度か会った事がある。



そして何より……、

俺のファーストキスを奪った男だ。



良く覚えていないが俺が小2の時、泰斗さんにされたのを覚えている。
……しかもベロまで入れられて。


愛情表現として、家族内でほっぺやオデコにはしていた。
でも唇は初めてで、驚きはしたものの、俺は唇にする重大性も理解出来ないガキだったし、それ以来泰斗さんもしてこなかったから、気にしてなかった。


「編入生って淹の事か……。チッ、濠のヤロー。わざと何も教えなかったな」


瀧の弟である濠さんとも、当然知り合いだ。
濠さんをパシりにしている泰斗さんを、何度か見掛けた事がある。



[*BACk][NEXt#]

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