梓瀞学園 3 「相変わらず濠さんは……。カッコよく決まってたのは、ドア開けて俺を出迎えたまでだね……」 再会に興奮する叔父の腕を、落ち着けと軽く叩くが、更に強く抱き締められ、後頭部に頬擦りされる。 「淹〜、え〜んちゃ〜ん! 少し背伸びた? また一段と可愛いくなってぇ〜!!」 濠さんは、兄である瀧にそっくりで、今はオールバックの黒髪に、向前家の証とも言える茶色が入ったディープレッドの瞳。 29歳には見えない程の美丈夫なのに、叔父馬鹿で、俺の前ではいつもこんな感じだ。 「取り敢えず座っていい? 色々説明してよ」 「ああ、そうだな。座って。今コーヒーいれてくるから」 そう言って、濠さんは右手前のドアを開けた。 あそこは給水室らしい。 理事長なんかと話をするのは面倒だと思っていたが、相手が濠さんなら話は別だ。久しぶりに会ったし。 「──じゃあ、濠さんがここの理事長って事でいい訳?」 「そうだよ。親父の跡を継いだんだ」 「え? じゃあじいちゃん、この学園の経営者とかな訳!?」 結局、じいちゃんとは会えず仕舞だから、じいちゃんの詳しい職業も全く知らない。 「ん〜……趣味の1つ?」 「…………趣味?」 「そう。趣味の1つで、この学園創ったの。親父はいい年して好奇心旺盛だからね。あっちこっちの企業に手出してるんだよ。親父は向前グループの当主。向前グループって結構有名なんだよ?」 向前グループなんてモノは初めて知った。 それより、趣味で学園創るなんて、一体じいちゃんはどんな人物なのか。頭が痛くなってきた。 只でさえ、じいちゃんがこの学園の創設者で、濠さんが理事長だと言う事に驚いたのに……。 「ちなみに梓瀞学園って名前は、お袋の名前の梓(アズサ)と、親父の名前の瀞(セイ)から付けたんだって」 「ら、ラブラブだな……」 (あれ? でも、結婚前に一度だけ会った母さんが“お祖父ちゃんは閻魔様だ”って、小さい頃俺に教えてくれなかったか? そんな怖い人が、そんな惚気の様なネーミングにするか?) 母さんの話は、いつも誇張しているからな……。 「学園の事、案内してくれた奴から聞いた?」 「ああ、大体は。でも詳しくは、自分で見て覚えてくよ」 満足そうに微笑みながら、濠さんは頷く。 「じゃあ、学園の内情でも話そうかな」 「俺も聞きたい。なんか“生徒会”ってのと“風紀委員会”ってのが、優遇されてる様に思える」 [*BACk][NEXt#] [戻る] |