梓瀞学園 2 だから、乗ってボタンを押しても動かないからね、と吏麻先輩は教えてくれる。 どうせ使わないけど、解ったと頷く。 「4階と5階のボタンもあるけど、この階には何が?」 「4階が生徒会室と風紀委員会室。それに双方の仮眠室。5階は今から向かう理事長室」 吏麻先輩は、ブレザーの内ポケットからカードを取り出し、慣れた手付きで差し込んで5階を押した。 応答するようにエレベーターのドアが閉まり、独特の浮遊感。 「…………何で吏麻先輩が専用カードを、」 何となく答えが分かったが、訊いてみる。 「持っているかって? 俺、生徒会副会長」 ニッコリと笑って言われる。 紅雨が副会長……。 「うっわーピッタリの様な、そうじゃない様な……」 「──さぁ、着いたよ」 ドアが開いてビックリ。どこの豪華ホテルの廊下だ、と思う程おしゃれな空間。 床は焦げ茶の絨毯が敷き詰められ、ほんのりベージュ色の壁の上部には、一定間隔でお洒落なライト。 着いた理事長室のドアは、素晴らしく緻密な細工が施されていた。 「じゃあ、理事長との話が終わったら、寮の案内しに迎えにくるから」 「あ、はい。ありがと先輩」 軽く頭を下げると、黒のプリンスは優美な笑顔で去って行った。 (さてと) 重厚な理事長室の扉に向き合う。 何を話すのか知らないが、これから初対面の理事長と話をすると思うと、ちょっぴり面倒くさい気分になる。 (でもまぁ、お世話になる訳だし、ちゃんと挨拶しとかなきゃな) そう自分に言い聞かせ、ドアをノックする。 ──コンコン、 ガチャ (あれ?) ノックして直ぐに、内側から扉が開かれた。 「いらっしゃい。待ってたよ、淹」 「!!! ……ご、濠さんっ!?」 中から扉を開けたのは、俺の叔父である濠さんだった。 驚く俺を濠さんは満足そうに見て微笑み、どうぞと中に促される。 室内も負けない位豪華で、中央には黒の革張りの応接セット。その奥に理事長の大きなデスクと椅子。その後ろの壁は一面窓ガラスで、広いバルコニーまである。 部屋の左奥と右手前には、どこかへ続く扉があった。 「え〜ん〜会いたかった〜!! 3年ぶりじゃないかぁ〜?」 ドアを閉めた途端、理事長らしい上品な笑顔を、ふにゃりと締まりの無い笑顔に変えた濠さんは、部屋を見回していた俺を、後ろから思い切り抱き締める。 [*BACk][NEXt#] [戻る] |