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沢田綱吉


「どーしてくれんだよ!」

「ん?」


 夕食の片づけを手伝っていた揚羽は弟の悲痛な叫びに首を擡げた。


「どうしたの、ツナ?」
「!ねえさぁ〜ん!」


 部屋に入ってきた揚羽に綱吉は勢いよく抱きついた。
 自分にしがみつく飴色の髪を撫で付けながら、珍しいな、と思った。幼いころはよくこうして些細なことでも泣きついてきていたが、中学に上がってからは綱吉のほうが恥ずかしがってこのような触れ合いは殆どなくなっていたというのに。よほどのことがあったのだろう。









‡標的2‡ 沢田綱吉









「・・・・・・ふうん。つまり、『公衆の面前でパンツ一枚になって京子ちゃんに告白してしまった』と・・・」
「うわぁ〜ん!!」


 羞恥に頭を抱えて床に突っ伏してしまった弟に、揚羽のほうが頭を抱えたくなった。フォローのしようがなかった。


「告白する気なんてサラサラなかったのに〜!」
「告白したくてもできなかっただけだろ?」
「う・・・うるさい!」


 図星をつかれて憤った綱吉がリボーンの頬を抓るが、すぐに返り討ちにあった。見事な蹴りが綱吉の顎にきまる。


「ツ、ツナ!!リボーンちゃん、暴力はダメよっ?」


 揚羽が慌ててたしなめるように、リボーンを後ろから抱えあげる。綱吉が蹴られた箇所を押さえながら、飛び起きた。


「いって〜〜〜っバイクにひかれても平気だったのに」
「バイクにひかれた?!」
「あん時は死ぬ気だったからな」
「死ぬ気?」


 どうやらこの少しの時間に、綱吉は稀有な体験をたくさんしてしまったようだ。



(夢ならいいのに・・・)



 リボーンが説明した死ぬ気弾やボンゴレというマフィアの話に、揚羽は現実逃避をしかけていた。


「ボンゴレ9世は高齢ということもあり、ボスの座を10代目に引きわたすつもりだったんだ」


 リボーンは黒いスーツの懐からゴソゴソと何かを取り出した。揚羽はリボーンが取り出したものを見て硬直する。


「だが10代目最有力のエンリコが抗争の中撃たれた」
「ひいっ」


「若手No.2のマッシーモは沈められ」
「ギャア!」


「秘蔵っ子のフェデリコはいつのまにか骨に」
「いちいち見せなくていいって!・・・はっ!姉さん!?」


 綱吉は両手で写真が見えないように視界を防ぎながら、さきほどから全く反応を見せない姉に注目した。



「うわ〜!姉さんが白目むいて気絶してる!!!?」



 器用に座ったまま意識を失っている姉の体を揺さぶりながら、綱吉の悲痛な叫びが夜空に響きわたった。









***









「ふわぁ、昨日はとんだ災難だったなぁ」


 結局リボーンは綱吉のベッドを占領して寝てしまい。綱吉は仕方なく揚羽の部屋で夜を明かした。


「揚羽!」
「あっ奈緒おはよう!」
「うん、おはよう・・・じゃなくて!アンタ大変なことになってるわよ?」
「へ?」


 どうやら昨日の綱吉の告白がかなりの評判になっているらしく、その場に居合わせた剣道部の持田が綱吉に勝負を持ちかけたそうだ。己の得意な剣道で。


「そんな!剣道で勝負なんてツナに勝ち目があるわけないじゃない!!」
「持田って笹川の妹が好きなんでしょ?ずいぶんセコイ手、使うわねー」
「わたしちょっと行ってくる!」
「いってら〜」


 ひらひらと手を振って奈緒は親友を見送った。









***









「京子ちゃん!!」
「!揚羽さん!!」


 自分の名前を呼ぶ声に振り返った京子は、揚羽の姿を視界に捉え抱きついた。揚羽と京子は京子の兄を通して顔見知りだった。
 姉のように自分を慕ってくれる京子を揚羽も好ましく思っている。しかし今、京子の顔にいつもの明るい笑顔は無く、その表情は悲しみと困惑が綯い交ぜになっていた。


「どうしよう、揚羽さん!持田センパイがあたしのこと賞品だって・・・!」
「しょ、賞品!!?」


 京子の元気がない理由を察して、なんて最低な男なのだろうと揚羽は憤った。賞品など、まるで彼女の意思を無視している。それに彼女は『もの』ではない、れっきとした『ひと』なのだ。

 揚羽はちらり、と持田を見た。

 これで不戦勝だ!!京子はオレのモノ!!と下品な高笑いをあげている持田に、揚羽は沸々と怒りが湧き上がった。おそらく綱吉用にだろう、側に用意されている防具も、何か卑怯な細工がなされているのだろうなと揚羽はなんとなくわかった。


「それで・・・ツナは?」


 あたりをキョロキョロと見渡しても、肝心の綱吉の姿が見えなかった。


「沢田君なら、トイレに行ったそうです・・・」

(あ・ん・の・馬鹿弟〜〜〜!!)


 好きな女の子のピンチだというのに、逃げ出した弟の愚かさに揚羽は今度こそ堪忍袋の尾が切れた。


「まってて京子ちゃん!すぐにツナをつれてくるから!!」
「あ!揚羽さん!!」


 京子の制止の言葉にも耳を貸さず、揚羽は一目散に駆け出した。









***









(ツナったらどこに行ったんだろう?)


 勇ましく剣道道場を離れた揚羽だったが、すぐに綱吉の居所がわかるわけもなく、すでに途方に暮れていた。
 とりあえず、道場から下駄箱までの道のりにあるトイレを虱潰しに探していたが、一向に見つからない。もしかしたらトイレには寄らず、もうすでに家路へついているのかもしれない。様々な考えが浮かび、焦げ付くような焦燥が揚羽を苛む。



 と、そのとき、



「どーせオレはダメな奴さほっといてくれよ!」



 近くから聞きなれた声が聞こえてきて、揚羽は足を止めた。


(ここだ!)


 まだ校内にいたことに安堵を覚え、揚羽は綱吉の声が聞こえた男子トイレの扉を開けた。






「死ね」






 しかし、扉を開けてすぐに視界に入ってきたのは、大切な弟が殺される最悪な瞬間だった。



「ツナ!!?」



 けたたましい銃声が鳴るだろうという予想とは裏腹に、プシュ、という空気の抜けるようなまぬけな音と共に、弟は至極呆気なく絶命した。


「ツナ!つなぁ!!・・・っ!いやぁ!!」
「落ち着け揚羽」


 弟の死体を前に半狂乱になった揚羽は、冷静なリボーンの言葉に憤る余裕すらなかった。ただただ額から血を流す弟の骸を抱きしめる。


(・・・・・・・・・?)


 しかし、すぐに感じた違和に、揚羽は綱吉の名前を呼び続けることをやめた。
 確かに額を撃ちぬかれている弟は、人間ならば生きてはいないはずだ。しかし今、腕に抱きしめている弟の身体は脈動を始めていた。


 ドクン。ドクン。ドクン。



「何が何でも1本とる!!!」
「きゃあああああああ!!!」



 急に脱皮でもするかのように、綱吉が生き返った。文字通り。
 そしてほとんど同一人物とは思えない形相で、勢いよく走り去っていった。・・・服だけを残して。


「・・・何?・・・今の・・・・・・」


 生き返ってくれたのは嬉しいが、あれでは全くの別人である。


「い、まの・・・ほんとにツナ?」
「イッツ死ぬ気タイム」


 他人事のように淡々と話す自称家庭教師に、揚羽は我に返った。


「た、たいへん!?服もってかなきゃ!!」


 わたわたと綱吉が残していった服を拾い集めて、揚羽も綱吉の後を追った。
 その肩にぴょいっとリボーンが乗ってきて、揚羽は走りながら訊ねた。


「今のが昨日言ってた『死ぬ気』ってやつ?」
「そうだぞ。この死ぬ気弾で脳天を撃たれた者は、一度死んでから死ぬ気になって生き返る」
「へ、へ〜・・・」


 いまいち信じられない内容だったが、目の前で実際『死ぬ気』になった綱吉を見てしまったのだ。信じるよりほかはないだろう。









***









「全部本」
「赤!」


 揚羽が道場についたときにはすでに勝敗はついていた。
 一瞬、静まり返った道場内だったが、すぐに火が付いたように騒がしくなった。
 ワッという歓声と共に、綱吉の下へたくさんの人が集まる。


「よかった、ツナ・・・勝てたんだ・・・」
「揚羽さん!」


 京子の隣へ移動しながら、揚羽はほっと胸を撫で下ろした。リボーンはいつの間にかいなくなっていた。


「それにしても沢田君、何で裸なんだろう?」


 隣で、こてん、と小首を傾げる京子に、揚羽はぎくりと身体を強張らせた。マフィアだのなんだの。彼女に知られるのはマズイだろう。


 そう思った揚羽はとっさに誤魔化そうとした。



「う、ウケ狙いよ!」



 しかし、苦しかった。



(ちょっと、無理があるかな・・・)


 さすがにそれはないだろう、と自分でも思ったが、しかし言ってしまったものはもうなかったことにはできない。揚羽は、心臓をどきどきと高鳴らせながら、京子の反応を待った。


「なんだ、そうだったんだ!」
(あれぇ!?信じちゃった!!?)
「だから沢田君、昨日も裸だったんですね!」


 しかし、彼女は揚羽の予想の斜め上をいっていた。

 そっかぁどおりでへんだと思ったんだ!と疑問が解消されて無邪気に微笑む京子はとても可愛らしい。

 揚羽は眉根を下げて、京子の顔を覗き見る。


「京子ちゃん・・・もうツナのこと、嫌いになった・・・?」


 おそるおそる訊ねた揚羽に、京子は朗らかな笑顔で答えた。


「まさか!昨日は怖くなって逃げ出しちゃいましたけど、ぜんぜん嫌ってなんかいませんよ!!」


 それにしても沢田君ってすごいんですね!となんでもないことのように言ってのける京子に、揚羽は満面の笑みを浮かべた。
 我が弟ながら趣味がいいぞ、と。純粋に嬉しかった。


「京子ちゃん、よかったらツナのこと名前でよんでやってくれる?きっと喜ぶから」
「えっと・・・「ツナ君」・・・ですか?」
「うん!」


 にこにこと機嫌よく揚羽が言えば、京子はわかりました!と快く承諾した。


「あたし、ツナ君に昨日のことあやまってきますね!」


 むしろ謝罪するべきなのは綱吉のほうだろう。揚羽はそう思ったが、しかし、京子は自分に非があると本気で思っているようだ。本当に、良い子、なのだろう。





(・・・よかったね、ツっ君)





 怒っていると思っていた京子に話しかけられて嬉しそうにしている綱吉に、揚羽は心からの祝福を送った。









 しかし、綱吉の告白は冗談だと思われてしまったらしい。(ごめんツナ!ほんっとにごめん!!!)














弾丸は口から放たれた。
(こうしてツナのもとに 死と となりあわせの生活がやってきた)














やっと原作一話しゅーりょー。


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