09
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「やっぱり松田を王子にしてよかったなあ」
ホームルームが終わり周りを片付けている俺の机の上に、べっとりと張りついている委員長。その顔はほにゃんと緩んでいる。なんだか、それはそれで薄気味悪いけれど。
「なんだよ、委員長」
「いやあ。まさか松田がこんなに上手くなるなんて思ってなかっ……最初から原石であることには気づいていたのかな!? まさかぼくはプロデューサーとしての才能を……!?」
これで文化祭の成功は間違いない。そこだけぼそぼそと喋る委員長を一瞥して、ため息を吐く。お礼なら悠里にいいなよ。棒じゃなくなった俺の台詞は、悠里の指導の賜物なんだから。
しかも俺が人並みに出来るまで鬼だったくせに。出来るようになったらこれだ。
(現金な委員長だな)
いっそすがすがしいくらい。
(なんか、最近はひっつかれて鬱陶しいけれど)
文化祭までの日数も、残すところ数日となった。今週末は文化祭ということで、うちのクラスだと衣装班が一番血眼になっている気がする。草原が言うには出来ているのだがもっと細部まで凝っているから。と。
俺や悠里は出来あがってからのお楽しみということでまだ見せてもらっていないけれど、一足先に衣装班を覗いてきた委員長は自慢のメガネをスチャッと上げてにやにやにやにやしていた。どうやらご満悦らしい。
「松田! 暇だろちょっと来い」
「え!? 呼び出しですか先生なんで和音くんなんですか!! もしかして準備室に連れていってア――――ッなこと……!」
「うるせえよどっから湧いて来たんだ。おまえが持ってきてもいいんだぞ数学のノート」
「あ、いえぼく可能な限り美形との接触は控えてるんで。はい。フラグ立ったらいやだし。腐男子には腐男子受けという見てる分には「けしからんもっとやれ」だけどいざ自分がってなると断固拒否な無視できないルートあるんで」
「はいはいはい」
ほんとうに……今草原どこから出てきたのだろう。衣装班で格闘しているのではなかったのだろうか。
そんなこと訊いたところで「チッチッチ、萌えのためならたとえ火の中水の中ね、フフッ」て言われるだろうから黙っておく。
ていうかなんで俺。やっぱり委員会系の仕事につきたくないからって言って、前期に適当に決めた数学係なるもののせいか。草原が属する音楽係や悠里が属する理科係のように、全くもって仕事のやってこない係もあるというのに。
うぐぐ、とうなっていると、「成績落とすぞ」って。それは横暴だ!
「せんせーいつも俺使う! たまには自分で運びなよ!」
教卓の上にこんもりと積み重なっているクラス全員分のノートを持ち上げる。重い。
「腕が痛いんだよ、ねぎらえねぎらえ」
「それ前回持たせたときも言ってた」
「うるせーいいから運べ」
絶対後期は数学係にならないぞ、と思いながらも根っこの部分では真面目な俺。重いノートをよっと持ち直し、先生に続いて教室を出た。
(あ、そうだ。今日練習ないんだった)
ちらりと教室を見返すと、端っこで荷物をまとめている悠里が目に入る。
(約束してないけど、待っててくれるかな)
近所だし。いつもは放課後になると俺が悠里の席まですっとんでいって一緒に帰ろうと言うから今日は帰っちゃうかな。
(う、最近の俺は妙に乙女思考だ)
悠里のことばかり考えている。前からだけど。
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