04
*
ぼんやりとした意識の外で、ボソボソと会話をする声が聞こえる。
――拾ったって、またおまえは。
――うん。かわいいもの、拾った。
――これ以上めんどう増やすなよ、ばか。
――でもこの子……。
なんだか固めのものに寝転がっているようだった。ふたつの声が聞こえる。ひとつはぼんやりとした低めの声で、もうひとつはハキハキとした声。どちらも馴染みのないものだ。知り合いではない。
紙が擦れる音がする。一枚じゃない、何十枚という――。
(ぼく、どうしたんだっけ)
――あんたなんか……。
「うわ!」
ずいぶん勢いよく体が上がった! じゃなくて! ここどこ!?
(たしかぼく、放課後に小さな男の子たちに呼び出されて)
男の子とは思えないような可憐で庇護欲をそそる子たちなんて、存在こそ知っているもののお知り合いになったり喋ったりすることなんてなかったというのに。そんな可愛らしいりんご八分の一カットも食べられないような小さな口から、とんでもない罵詈雑言が出ていたのはまた別の話だけれど。
「拾った子が起きたよ、志野ちゃん」
「わ!」
横からぬっとあらわれた知らない顔に、思わず後ずさる。後ずさってみてはじめて、見たことのない場所に唖然とする。ここ、ほんとうにどこだ?
内装はきれいだ、間違いない。壁や窓はよく手入れされたもののような気がする。しかしいかんせん部屋が汚い。文書のような紙で埋め尽くされている。山積みになっているものもあれば崩れてめちゃくちゃになっているものもある。
どこかの資料室か。
「おう、起きたか。大丈夫か」
「あの……えと、ここは」
じっとこちらを見つめている大柄な男の人。うわあ、金髪ではないけれど髪の毛明るい。ピアスも開いている。
志野ちゃんと呼ばれた男の子は、正反対に黒髪にきっちりと制服を着ている。なんだかこちらはちんまりしているようだ。だけど、話が分かるのはこっちな気がする。
ぼくは素早く体を志野ちゃんという人の方に変える。
「むっとするな、水無瀬。おれのほうが話が分かるとでも思ったんだろうなあ。賢明だ」
読まれている。
(え……てかこの人今なんと言ったか)
みなせ、そう言った気がする。
ふと、室内の様子が目に入る。あまりにも変わり果てているが、この書類の束……もしかして……。
水無瀬、なんて珍しい名字もうひとりいるなんてことは考えられない。明るい髪の毛を見て、「水無瀬、……碧……会計さま?」なんて思いいたる。髪の毛はぴょんとうれしそうに揺れた。
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