02
「紘はなれんな。寒い」
美形ってほんとうにミステリーだなあなんて、ぼくは血まみれのミステリーを読みながら考える。御影がいるから、なんだか進みがわるいミステリー。
「御影、最初はぼくを端っこにぎゅうぎゅう詰めにしたくせに」
「悪かったって」
なにかあるごとにぼくがこうやって悪口をいうから、御影も困ったものだろう。それを知っていてやっているぼくは、フツウの男よりもすこしだけ性格が悪いのだろうか。
見れば見るほど、御影はこの学校でも類稀なる美貌を誇っていると思う。いくら生徒会やら親衛隊持ちやらに疎くても分かる。
(きれい、だなあ)
隠れるようにしてちら見するたびに思う。ひとり占めしているようで、学校内のカワイコちゃんたち(もちろん男)には申し訳ないことをしていると思う。御影もあまり目立ちたくないらしく学校ではひっそりと暮らしていると言っているのでバレてはいないのだろう。
「なに考えてる」
「べつに。御影は不思議だなあと思ったの」
「俺のどこが? フツウだよ」
「フツウはぼくだよ……」
どこにこんなハイスペックなフツウがいるんだ。意味が分からない。
「紘がフツウね……」
「そうだよ。御影がフツウなんて嫌味だー」
「はいはい」
そう思っていればいいよなんて、よく分からないことを言って、ちら見していたぼくの方を御影が振り返る。さっきまで背中合わせだったのに急にバランスが崩れて、体がぐらつく。
そんなぼくの体をよ、と抱きとめて、御影が「おまえに手はないのか」と呆れる。
まつげ、長いなあ。ニキビもないし、パーツのひとつひとつはすごく綺麗で、ううん。やっぱり御影は学校一のイケメンだよ。
「なに見てる」
「御影の顔」
へへ、と笑っていると、顔をしかめられる。
「おまえはほんと」
なにかボソボソと言っているけれど、御影の声が低すぎて全然聞きとることが出来ない。なに、と聞き返すけれど一瞥して、ふいっとそっぽを向かれた。なんだそれ。
「紘はいやしだよ」
「そうかな」
おいで、なんて言いながら、御影はぼくの体を自分の方に引き寄せる。読みかけだったミステリーはしおりをしないままぼくの手を離れて屋上の床にすとんと落ちた。
「あ、血まみれミステリー」
「なに」
「なんでもない」
別にいや。いつも御影といるときはあまり集中できていないのだから。結局ひとり後で読み直すのだし。
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