novel
日番谷隊長の受難
4.誤解(十三番隊)









――日番谷冬獅郎と朽木ルキアは恋人同士である。
そんな噂がまことしやかに瀞霊挺内でささやかれている。



「失礼いたします」
「あ、朽木。どうしたの?」
「ひ、日番谷隊長は……」
「隊長?」

ここ一ヶ月で格段に増えたやり取りに、乱菊はひそかに首をかしげた。
平隊員であるルキアが執務室を訪れることなどまずないし、隊長である日番谷に用があることなどまずもってない。
それが一体どうしたことだろう。

「隊長は今……」
「悪いな朽木、待たせた」
「うひゃぁうう!!」
「な、なんだよその反応。こっちが驚くだろ」
「いえすみませんっっ!」

出てるわよ、と乱菊が言おうとしたちょうどその時、帰ってきた日番谷がルキアに声をかけた。
過剰なまでに反応したルキアの頬がうっすら赤くなっていることを乱菊は見逃さない。

(……こういうの見てると、あの噂もあながち間違いじゃないって気がしてくるのよね)

「悪いな松本、少し出る」
「いえいえ。ごゆっくりー」
「おう。仕事サボんなよ」

――乱菊のその言葉が二通りに受け取れることに、果たして日番谷は気づいているのだろうか。


*******



「……ていうことがあったのよ」
「はぁ、そうっスか」
「何よその反応」

乱菊はぶうっと膨れて、その勢いのままお猪口をあおった。乱菊の隣に座るのは恋次。場所は二人行きつけの安い居酒屋だ。
……当然会計は恋次持ちである。

「いや、なんか日番谷隊長とルキアってのがピンとこなくて」
「そぉ?あたしはアリだと思うわよ、あの二人。身長ワースト2の隊長に対して朽木はワースト3。ぴったりじゃない」
「……それ、日番谷隊長が聞いたら激怒しますよ」
「本人に言うわけないじゃない」

で?と乱菊は促した。

「朽木隊長は知ってるわけ、この噂」

みるみるうちに青ざめていく恋次を、乱菊はハンッと鼻で笑った。

「あんたんトコのシスコン隊長、ヤバイんじゃないの」
「やっぱそう思いますか……?」
「あたしじゃなくたって思うわよ」

とりあえず、噂が沈静化するまで朽木白哉の耳にその話を入れないようにしよう、と話はついたのだが。
――事はそう簡単ではなかった。


*******

「兄様!おやめ下さい!」

ざわざわとした喧騒と、ばたばたと響く足音が執務室に近づいてくる。
合間に響いた声に、乱菊と日番谷は顔を見合わせた。

バタンンッッ!!

「日番谷はいるか!」
「は?どうしたんだよ朽木、」
「覚悟っ!」

執務室の扉を開けて呼ばわるなり、
――白哉は日番谷に切りかかった。

不意打ちにも関わらずそれをかわすことができたのは、相手が日番谷だったからであろう。

ドカッ!

ものすごい音を立てて千本桜が日番谷の椅子に食い込んだ。

「いったいどうしたっていうのよ」
「いやぁ、ついにあの噂が朽木隊長の耳に入ったらしくて」
「なぁるほど」

乱菊は一緒についてきていた恋次にコソコソと近づいて聞く。巻き込まれるのだけはごめんだ。

カン!カァン、カキィン!

「朽木!なんだってんだ一体!」
「黙れ下郎」

その間も白哉と日番谷の攻防は続いている。白哉はここが室内だということを認識しているだろうか。していないと思われる。
が、おもしろいので決して止めたりはしない乱菊である。修理費は朽木家にもってもらう気満々だ。

「どの馬の骨とも知れぬ奴にルキアをやるつもりはない!」
「は?やる、って……?」
「にににに兄様!!」

ポカンとした顔の日番谷。対して意味を理解して真っ赤になったルキアが二人の間に飛び出した。

「朽木!あぶね……」
「軽々しく呼び捨てにするな!」
「じゃあどう呼べってんだ!」
「兄様!誤解です!」

ルキアは二人を遮って力一杯叫んだ。



「日番谷隊長は私に稽古をつけてくださっていただけですっっ!!!!」



「「…………は」」

当事者たち、そして見物人たちに沈黙が落ちた。


「ああ……なるほどねぇ……」
「同じ氷雪系ですもんね」
「稽古するにはうってつけの相手だわ」


そそくさと剣を収めて、何事もなかったかのように六番隊隊長は十番隊隊長に挨拶した。

「では失礼する」

優雅に羽織を翻して去っていく姿はまさしく大貴族の名にふさわしい。



「……失礼する、じゃねえぇぇぇ!!一言くらい謝って行きやがれッッ!!!!」



結局巻き込まれて一番の被害を食らった日番谷の、力一杯の叫びがこだました。







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かなり今さらで申し訳ありません。一万打企画、裕也様に捧げます。


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