novel
水菓子と甘味と
※日桃







夢を見ている。
そうはっきりわかるほど、それは鮮明な夢だった。


*******



今より小さい雛森が、ふとんにくるまって寝ている。頬が赤く呼吸が苦しそうなところから見て、どうやら風邪を引いているらしい。
――ああ、これは流魂街の頃の記憶だ。

「雛森」
皿を手にした日番谷が部屋に入ってきた。
「これ」
皿の上のそれは、ごろごろといびつな形をしたりんご。
「シロちゃんが剥いたの?」
「悪ぃかよ」
「そういう意味じゃないって。もう、シロちゃんたら」

シャクリ。
一欠片、雛森は口に含んだ。

「……ふふっ」
「あんだよ」
不安と期待を込めて雛森を注視していた日番谷が、不機嫌そうに眉を寄せた。雛森はあわてて手を振って否定する。
「違うよシロちゃん、おいしいよ?ただ、シロちゃんが剥いてくれたんだなぁ……って思うとうれしくって」
「……そうかよ」
ぷいっとそっぽを向いて部屋を出ていってしまったアレは、絶対に照れ隠しだ。

シャクリ。もう一口かじる。
いびつな形をして、ところどころ赤い皮の残るりんご。すっかり手であたたまってしまっていて、少ししょっぱい。
「下手だなぁ……」
でもその不器用な優しさが愛しい。
一口ずつ味わって、雛森はゆっくりゆっくりと咀嚼した。


*******



ふっと意識が浮上する。整った木目の天井。――五番隊の自室だ。
「起きたか、雛森」
「日番谷くん」
枕元には日番谷が座っていた。というか、
「日番谷くん、仕事は?」
「今日の分は終わってる。藍染におまえがぶっ倒れたって聞いて、」
色々持ってきた。

そう言った日番谷が差し出したのは、皮を剥いて食べやすい大きさに刻まれたりんご。
「おまえ昔っから、風邪引いた時の定番はりんごだったろ」


――それにしても何てタイムリーな。
雛森は思わずそのりんごをジッと見た。形の整ったきれいなりんご。


「……シロちゃん、おっきくなったねぇ……」
「あ?嫌味か?」
「違うよぅ」
本当にそう思ったのだ。
確かに時は経っていて。
この幼なじみは、何も変わらないように見えて――どんどん歩いて行ってしまう。


シャクリ。


「うまいか?」
「うん、おいしい」
「そりゃよかった。それから昨日、ばあちゃんから届いたんだけど」
そう言って日番谷が示したのは甘納豆の袋。日番谷の好物であり、――祖母の好物。
くに、と柔らかい歯ごたえ。素朴な甘味。


なつかしい。何もかも。
昔に戻りたいとは思わないけれど、確かに愛しい日々かそこにある。
そしてそう思う時はいつも、どこか寂しさを同時に感じるのだ。


「……おいてかないで」
食器を片付ける日番谷に聞こえないよう、雛森は小さくそうつぶやいた。







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あ、あんまら雛森が風邪引いてる感じしないorz
日番谷隊長は器用だと思います。でもそれは生活の中で培われたものだといい。


あきゅろす。
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