novel
夕方バニラビーンズ
※現代パロ







「ただいま」
学校帰り、玄関の扉を開けるなり、ふわりといつもとは違う甘い匂いがした。何だろう?

「あ?シロちゃん?おかえり――!!」
奥からぴょこっと顔を覗かせたのは姉であり幼なじみの雛森桃。

「シロちゃんって言うな」
日番谷がいつもの口上を返せば、雛森はまったくこたえてない様子でふふふっと笑った。やけに機嫌が良い。

「どうしたんだ?」
「へ?」
ランドセルを下ろしながら聞けばきょとんとした顔。どうでもいいがかなり間抜けだ。
「機嫌、やたらいいだろ」
「ふふっ、そう?」
と微笑む雛森はやはり機嫌がいい。ニコニコと笑いながらいったん台所に引っ込んだ雛森は、ミトンを付けた手でオーブンの天板を持ってきた。

「見て、クッキー焼いてみたの!味見してくれる?」
「……いいけど」
熱いから気を付けてね、と言われながらきつね色に焼けたクッキーに手を伸ばす。ハート形のそれを、口に放り込む。

「どう?」
「……別に、普通」
「もう!そこは普通『おいしいよ』って言うところでしょ?」
「うまいも何もクッキーなんて失敗しようがないだろ」
「もう、かわいくないんだから」
「かわいくなくて結構だ」
もう、といいながらも雛森は鼻歌を歌いながらキッチンに引っ込んでいった。機嫌を損ねた様子はまるでない。





日番谷は小学六年生。四つ違いの雛森は高校一年生。共に天涯孤独の身で、今の祖母に引き取られてからはいつも一緒だったが……この差は大きい。かなり。

(どうせ、ヤツにやるんだろ)
藍染、とかいう教師。雛森は高校に入学して以来その教師に夢中だ。
気に食わない。

(「まずい」って言ってやりゃよかった)
そうすれば雛森があげることはなかったかもしれない。

せめて、アイツと同い年だったらよかったのに――自分のまだまだ小さな手をギュッと握りしめて、日番谷は心の中でつぶやいた。









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あきゅろす。
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