novel
恋は匂へど
2.白銀(市+日)







わがよたれそ つねならむ


*******



――京で評判の陰陽師がいるらしい。

(うさんくせぇ)
しかし日番谷はその類のものをまったく信じていない。なぜなら――……。
「なぁ冬獅郎、聞いてっか?」
「聞いてねぇ」
「おい!」
噂を持ってきた張本人、一護は半目でジロリと日番谷を見た。日番谷は平然と書類を片付けている。


日番谷は、「鬼子」と称されている。
銀色の髪、翡翠の瞳。ありえない色を宿して生まれた、鬼の子供。



(鬼の子が、霊だの物の怪だの恐れてどうする)
別に自分が鬼だと思っているわけではないのだけれど。
ただ知っているだけだ。――本当に恐ろしいのは、生きている人間なのだと。

「今日の分の仕事は終わった。帰る」
「お、おい待てよ冬獅郎!」
一護の声が背中から追いかけてくるのを無視して、日番谷はその場を後にした。


*******



「うさんくせぇ」
日番谷はもう一度、今度は声に出してつぶやいた。宮中から自邸への帰り道、軒ではなく徒足での帰宅。
日番谷がその類のものを信じないもうひとつの理由、それは、
「……そこらへんにうようよいるじゃねぇか」

男に裏切られて嘆き悲しみ死んだ女の霊。地方から衛士として連れてこられ、故郷に帰ることなく病に倒れた男の霊。
自分の目に見えるから、恐れることもない。祟られるようなことをしなければいいだけだ、と完璧に割り切ってしまっている。

ただよう霊を横目で見ながら、朱雀大路を早足に歩いていると、向こうから奇妙な男が歩いてくるのを認めた。
ありえないほどの長身、見覚えのない顔、そして何より――……、
(俺と、同じ……)
銀髪。

違和感と共にどこか寒気を覚えつつも、日番谷はその男とすれ違った。何事もなく。
一歩、二歩、三歩――……。
「――――ッッ!!!!」
ゾワリと、肌が粟立つような、これは殺気――!!
振り向くとそこには、さっきの、男、が――……。
「お、今の気ィ付いたん?なかなかするどいなぁ」
ニィ、と口角を吊り上げる蛇のような微笑みで、そうのたまった。

じりじりと男から距離をあけつつ、日番谷は慎重に問う。

「何者だ、てめぇ……」
「ボク?怪しいもんじゃあらへんよ。ただの陰陽師や」
「陰、陽師……?」
「せや。市丸ギン。よろしゅうな」

一歩、一歩と。
市丸と名乗る男は日番谷との距離を詰める。が……日番谷は動けない。まるで金縛りにあったかのように足がその場から動かなかった。

「今の気ィ付いたっちゅうことは……君もあるんやろ?」
「な、にが」
「霊力。見えるやろ?物の怪や霊の類」
ないと今のは気付かれへん、と市丸は言う。普通の殺気とは違うのだと。

固まってしまった日番谷の顎を、市丸の指が掬い上げた。細い指だが込められた力は強く、日番谷に抗うことを許さない。
「ふぅん……?」
すうっと開かれた市丸の瞳の色は、血のような赤。

「鬼子――」
「…………っ!」
「君んことやろ?日番谷冬獅郎クン」
「だったら何だ」

「逆やね」
「は?」
「君は鬼やない。むしろ逆や」
「ど、…いう……?」
「そん髪と瞳に生まれついたんは星の巡り。別に鬼の子っちゅうわけやない。きれいな容貌も天に愛されたからや。でもなぁ、」





「愛されるのは、天からだけやない。――鬼からも愛されてまう」





「……食われへんよう、気ィつけな、あかんよ」
ニイッと唇を吊り上げて。薄気味悪い蛇のような笑み。
「ほな、またね」
ひらひらと手を振って市丸は日番谷に背を向けた。
「……うさんくせぇヤツ」
吐き捨ててみたものの、背筋にぞくっとするような何かが残った。


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うゐのおくやま けふこえて











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ヤマなしオチなし意味なしorz
いきなり一話目と雰囲気変わったなぁ……いろは歌使うからには無常感みたいなの出したかったんだけど。市丸さんのせいで狂った←
うさんくさい市丸陰陽師が書きたかっただけです。笑


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