novel
一代目拍手お礼
※平安パロ(日番谷+一護)







宮中には鬼が住む。
美しく、人の心を奪う、鬼が。


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墨をこぼしたような夜空を、煌々と篝火が照らす。
暦の上ではとっくに春だが、夜はまだ寒い。冷たい風が少しく吹けば、ひらひらと桜の花びらが散った。
散った花びらは池に落ちて、水面の上でゆらゆらと踊る。
笛と、そして琴の音が響いていた。今宵は管弦の宴だ。

「見事なものですなぁ」
酒を飲みながら、宴の主催者である内大臣がつぶやいた。追従するように笑い声と同意する声が続く。
そしてただ一人、末席で黙ったまま酒をあおっている少年が、一人。

「そなたもそう思われるであろう?近衛府少将殿」
その言葉に、少年はようやく顔を上げた。
烏帽子からわずかにこぼれる髪は銀。
鋭く男を見返した瞳は翡翠。

特異な色を身にまとった少年の名は――日番谷冬獅郎。
齢は十四。元服してまだ三年にもならないが、幼い頃から天才と名高く、元服して出仕が許されるなりどんどんその頭角を現した。元々の家格もあって、今は五位につけている。
『鬼子』――というのは日番谷を指す。その異質な風貌は恐れられると同時に美しくもあり、魅入られる者は多い。その容貌で帝を抱きこんだのだ、と日番谷の出世をねたむ者は多い。

「私の娘が琴を弾いておるのだ。見事な音であろう?鬼も退散するに違いない」
内大臣に従う者たちはその口上にいっせいに笑った。それに機嫌をよくして大臣は笑って酒に口をつける。先の言葉は当然日番谷への嫌味だ。
しかし日番谷は顔色一つ変えずに言い放った。

「さあ、私には理解しかねます。あいにく、皆様のように低俗な嫌味を言えるように優れた頭の持ち合わせはありませんので」
一瞬、静寂が流れた。ついで意味を理解した大臣の顔がカッと怒りで赤く染まる。
何か言おうとする大臣の先手を打って、日番谷は立ち上がった。
「桜の美しさに少々酔ってしまったようで。これで失礼いたします」
くるりとその場に背を向ける。背中にかかった罵声になど見向きもせず日番谷はその場を後にした。


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「冬獅郎!」
後ろからかかった罵声とは違う呼ばわりに、日番谷は歩く速度を緩めた。追いかけてくる相手が追いつくのを待つ。
案の定、日番谷を追いかけてきたのは席を辞してきた一護だった。
「おまえな、」
「説教なら聞かねぇぞ」
先手を打たれて一護が詰まる。その隙に日番谷はさっさと止めてある牛車に乗った。
「能無し共が何を言おうが俺は気にしねぇし追従する気もねぇ。おまえだって同じだろ?」
「まぁな」
誇り高いその翡翠が問うてきて――苦笑しながらも一護は頷いた。不器用なこの友人のやり方がさらなる出世を阻んでいるのは知っている。それを言ってもこの友人が聞かないこともとてもよく知っていた。

「せっかくの酒がまずくなった。うちで飲みなおすぞ、来い」
その傲岸不遜な言い方にもう一度苦笑して、一護は隣に止めてあった自分の牛車に乗り込んだ。








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