novel
初恋メロディック
――だからそれは、たぶん必然だったんだと思う。
見れる話せる触れるの超霊媒体質。それは一兄だけじゃなくてあたしもおんなじだ。
だからそれは物心ついたことから見ている景色だったし、「見えてても信じなきゃ同じ」という持論のもと気にとめることすらなかった。
その時までは。


*******



公園の隅っこには、いつも泣いている女の子の霊がいた。
あたしはその子を知っている。とは言っても生前、直接面識があったとかじゃなくって、飛び出した女の子を母親がかばおうとしたんだけど結局二人とも車にはねられて亡くなった。そんな救われない事件の被害者だからだ。
「ママ、ママ……」
すすり泣く声はホントに悲しげで、聞いてるこっちが悲しくなりそう。あたしも何回か話しかけてみたけど全然反応しなくって、もう匙を投げていた。所詮あたしは一兄じゃない。



その日、あたしは公園で変な男の子を見つけた。
夏の暑い最中だってのに全身真っ黒の着物。背中には刀を斜めにかけている。
髪の色は、銀髪?っていうのかな。ともかく変な色してて、おまけに目は翡翠。
その子も成仏できない霊なのかなって思って話しかけようと近づいた矢先、人形みたいな口が動いた。

「いい加減、ココから動け。さもないと、大変なことになるぞ」
……は?
あたしは目が点になった。近づこうとしていた足が止まる。大変なことって、何?
びっくりしたのは女の子もだったみたいで、涙に濡れた瞳をまんまるに見開いている。
「お兄ちゃん、誰?」
「死神だ」
「あたしを地獄に連れにきたの?」
確かに死神って言ったらそういうイメージだ。全然信じてないけど。
女の子の話はなおも続いていた。やっぱり泣きながら。

「あたし、ママにひどいこと言っちゃった。ママなんか死んじゃえって言ったらホントに死んじゃった。ママあたしのこと恨んでるんだ。だからあたし地獄に行くんだ」
「おまえが行くのは天国でも地獄でもない。尸魂界だ」
それに、と男の子は続けた。
「母親は別におまえを恨んでなんかない。売り言葉に買い言葉ってのは誰にだってあるし、おまえのせいで母親が死んだわけでもない」

「……ホントに?」
「ああ、間違いない」
いつもいつも泣いていたその女の子の霊が笑ったのを、あたしははじめて見た。
あどけない笑みで。幸せに生まれて幸せに死んだんだろうな、そう思わせる微笑みだった。

その男の子は自分とさして変わらない背の女の子の頭を優しくなでる。
「尸魂界はいい所だ。向こうで幸せに暮らせ」
女の子はうれしそうにまた笑って、
「ばいばい、お兄ちゃん。ありがとう」
手を振って消えていった。



*******



その時の男の子の正体が死神だと知るのも、彼の名前が日番谷冬獅郎だと知るのは、この少し後。
だけど、たぶん――あたしの初恋は、このとき音を立てて動き始めてたんだ。







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案外長くなった…短いお話シリーズのはずだったのに。
そして夏梨ちゃん一人称だけどかけらも日番谷と絡んでないっていうか出てこない!
こんな代物ですみません…でもこのお題は夏梨ちゃんで書きたかったから満足。
ホロウに襲われて日番谷が助ける、てのも考えたんですがそんな乙女チックに夏梨ちゃんは動かない気がして(笑)あたしも戦う!て思考になりそうなイメージ。かっこいい女の子ってこういうやさしさに弱いんじゃないかと。


あきゅろす。
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