novel
Fortune Cross
2.ひとやすみのにわか雨(お題:TV様)







「おっし!まずは俺から行くかぁ!」
道場に入って一礼するなり、原田が道場全体に響く声で名乗りを上げた。何事かと稽古中の隊士全員がいっせいに振り向いたが、いるのが三バカと日番谷だと認めるなり各々の稽古に戻る。……この反応がむなしいと思うのは日番谷だけだろうか。
「「おー」」
声をそろえてパチパチと拍手をしてみせたのは永倉と藤堂。その息の合いっぷりがものすごく腹立たしい。付き合ってらんねぇ、と日番谷はため息をついた。
「じゃ、俺審判やるー」
ぴこっと手を挙げ、どこからともなく永倉は赤の旗と白の旗を取り出した。
ぶぅぁさっ!
勢いよく翻る。

「あ、東ィィ―――!死に損ねのぉぉ――左之介――!!!!」

わー!と一人囃す藤堂。
ムキムキと決めてみせる原田。
しみじみと浸る永倉。
アホらしい。馬鹿馬鹿しいことこの上ない。日番谷は藤堂から渡された木刀片手に脱力した。

「あ、西ィィ―――!隊士一の低身長ぉぉ―――!」
「おいこら、てめぇ!」
「え?だってホントじゃん」
「うんうん」
「てめぇら!」
しれっと言い切った永倉に頷いた藤堂。日番谷が木刀を振り上げると、

「おらおらおらぁぁ!そんなことしてていいのか!?!?」
ヒュンッ!
風の切る音が背後から聞こえて、日番谷はとっさにしゃがんだ。日番谷の頭上すれすれを刃なしの槍が……槍?

「って原田てめぇ、槍使ってんのかよ!?」
「剣だと俺が不利だろ?」
「苦手なだけだろ!」
長物の間合いは広い。それに加えて日番谷の身長――圧倒的に日番谷が不利である。

「うわ、左之のやつ容赦ないなー」
「てか、大人気ないデショ」
「わかってんなら止めやがれ!」
「「やだ」」
「だって」
「とばっちり食うの」
「やだもん」
「「ねー?」」
無責任に頷き合う二人に舌打ちをする。

ヒュンッ!ビュッ!
右、左、上、と絶妙のタイミングで繰り出される槍を、日番谷は体勢を崩したままではあったが次々と避ける。動く量は最低限に、でなければ次の攻撃の餌食になる。
ことごとく原田の槍を避ける日番谷に、永倉と藤堂を含むその場にいる全員が目を見張る。

「ハハハハハッ、やるな!」
「てめっ、人に……っ、攻撃する間を与えないヤツの、言うことじゃ、ねえっ!」
「まぁそう言うな!」
ヒュ!
言葉と共に繰り出された、脳天にまっすぐ向かった槍の一撃を上体を反らしてかわす。
そのまま数回バク転して、ようやく日番谷は原田との距離を取った。木刀を正眼に構える。

「ようやく迎え撃つ体勢が整ったか」
「だから、体勢を整える暇を与えないヤツが言うな」
「そう言うなって」
軽口を叩きながらも、原田の目は鋭く日番谷の隙を狙っている。油断できない。日番谷も木刀を握り直して僅かに刀身を下げた。
ジリジリと摺り足で動きながら隙を探り合うが、互いに隙を見せない。





ピンと糸を張りつめたような静寂と緊張がその場を走る。

「…………、」
「……っ!!」





「おーい、冬獅郎ー!」
「「「「「……だああぁぁっっ!!!」」」」」


*******



「だーかーらー、悪かったって!」
「別に俺は怒ってねぇ。それは原田に言え」
乱入してきたのは鉄之助だった。緊張の糸を思いっきりぶったぎった鉄之助は仕事が早い日番谷に手伝いを頼みに来たのであって、元々局長に言われていたため日番谷に否やはない。

「いいから手ェ動かせ」
「へーへー」
言いながら日番谷は洗い立ての隊服を手に取った。バサリと、皺を伸ばしたところで――そのまま隊服を干そうとした鉄之助を視界に捉えすかさず叱り飛ばした。
「バカ!何回か伸ばしてから干すんだよ。後で皺になるだろ」
「へぇー……冬獅郎って妙にそういうことくわしいよな」
「ばあちゃんの手伝いしてたからな」
うっかり滑り落ちた言葉に日番谷は内心顔をしかめる。自分らしくないうっかりミスだ。

「冬獅郎、ばあちゃんと暮らしてたのか?」
「……ずっと昔な」
「じゃあここ来るまで住んでた場所は」
「覚えてない」
「……そっか」
鉄之助の顔が曇った。わかりやすいヤツだ、と思う。きっとそういう所が皆にかわいがられる所以なのだろうな、とも。
「おまえが気にする必要はねぇよ」
俺一人の問題だ。





ポツリ。
突然、日番谷の頬に雨粒が落ちた。それは瞬く間に大粒の雨になり、せっかく干した洗濯物を濡らしていく。
「やべぇ!取り込むぞ!」
「おまえはそっち持て」
「おう!せーのっ!」
鉄之助の合図で洗濯竿の端と端を持ち上げた。そのまま屋根の下に駆け込む。
見る間に激しい夕立となった雨は、屋根の下に入るまでのわずかな時間でも容赦なく二人を濡らした。水を吸った髪が重量に従って垂れる。
全力で駆け込んだ日番谷と鉄之助は洗濯竿ごと縁側にドサッと倒れ込んだ。
「あーあ……せっかく洗濯したのに雨かよ」
「こういう雨はすぐ止む」
「ホントか?」
「ああ」
ひとつ頷いた日番谷は、空を覆う黒雲を見上げた。
――今は日番谷に従わない空。


*******



ポタリ。
前髪から滴った雨が頬を伝いまるで涙のように流れた。
日番谷は静かに瞳を閉じる。
ザー……ザーー……。
降りしきる雨の音。

(あの日もこんな、雨の日だった――……。)










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あのテンポを文にするのって難しい…イマイチキャラを掴みきれてない感が否めない。
えと……なかなか人気のあった一話目なのですが、二話目はご期待に添えたでしょうか?心配です……。


あきゅろす。
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