novel
男からも女からもモテんだなあ、お前
日番谷冬獅郎はモテる。
それはそれはよくモテる。
それは一護がよく知っているはずの――昔から変わらない不文律だった。


*******



空座高校には、「私服登校」なるものが存在する。
それは外国語教育を至上とする校長が始めた、欧州の学校を真似して始められた。――制度を真似したところで何の意味があるのか、という声が大半だが。
一ヶ月に一回、第三週目の金曜日――生徒たちは制服ではなく私服で登校するのだ。



「めんどくせぇよなぁ」
三限後の休み時間、一護は机に頬杖をつきながらぼやいた。机の上は開きっぱなしの英語のノート。外国語教育を至上としている割に、空座高校の英語の授業は他の学校と変わらない。何の意味があるのか、とPTAと一緒に校長に文句を言いたいくらいだ。
「仕方ないって」
なだめるように一護に言ったのは小島水色。一護の前の席に座り後ろを向いて一護と同じように頬杖をついている。水色はやわらかな笑みを浮かべていて、そんな人当たりのいい所が他人に好かれる要因だろう。
「そうは言っても一護、結構おしゃれな格好じゃん」
「変な格好で来るわけにもいかないだろ」
「確かに」
そう言って水色は笑った。よく笑うヤツだな、と一護は思う。――隣のヤツとは正反対だ。

「冬獅郎」
「……日番谷、だ」
「どっちだっていいだろそんなん」
「よくねぇ」
口を開けば毎度行われるやり取りに、水色はもう一度笑った。本当にこれくらいの愛想が日番谷にあればいいと一護は思う。
「もうちょっと眉間の皺どうにかしろよ、おまえ。老けて見えんぞ」
「大きなお世話だ」
相変わらず日番谷はそっけない。日番谷はきれいにまとめられた英語のノートと教科書をしまい、次の授業の数学の準備をしだした。実に淡々と。
「そういえば日番谷くんって、いつもこの日は機嫌悪いよね。何で?」
問いかけた水色を一護は驚いて見つめた。無愛想な日番谷を敬遠する者が多い中で水色は遠慮する様子がない。そしていつも機嫌が悪そうに見える日番谷の機嫌の度合いを正確にはかれる者は滅多にいない。
「……うるさいだろ」
「「は?」」
「女が」
一護と水色はそろって吹き出した。

一ヶ月に一回の「私服登校」の日、もっぱら喜ぶのは女子のみである。男子は一護のようにめんどくさいという者が大半だ。
日番谷はモテる。当然、この日はキャーキャー言われる率が高くなる、らしい。
「おまえな、それ世のモテない男たちが聞いたら殺されるぞ」

「まったくだあぁぁぁぁぁ!!!!!」
「うおっ!?」
突然割って入った第三者の声に一護はのけぞった。
声の主――浅野啓吾は泣きそうになりながら――ほとんど泣きながら日番谷の机に何かを叩きつけた。
「あん?」
「おまえ、おまえなあぁぁぁぁぁ!俺のこの気持ちがわかるか!?かわいい女の子がちょっと頬を赤らめながら近づいてきて期待したら、おまえに渡して下さいってこれを渡された俺の気持ちが!?!?」
「知るか!」
日番谷はのけぞりながらも律儀に答えた。そしてこれ――女子がよく使うかわいらしいキャラクターのメモだ――を開く。
日番谷はカサカサと紙を開いた。翡翠の瞳が中の文章を追う。みるみるうちにその表情がしかめられていく。
間違いない、あれは呼び出しだ。それもたぶん、告白のための。

「……黒崎」
「何だよ」
「悪いが、昼練はパスだ」
「わーってるよ」
ニヤニヤと笑いながら一護は日番谷の肩をポンと叩いた。水色も一護とまったく同じニヤニヤ笑いを浮かべている。日番谷は実に嫌そうに顔をしかめた。
ただ一人啓吾だけが嘆いていた。



昼休み。
弁当をかきこんだ一護はボールを持って外に出た。体育館のゴールは混んでいるが外のコートは空いている。それだけでいつも日番谷と二人で外のコートを使っているのだが、そこに誤算があった。
「あのっ、日番谷先輩……」
角を曲がろうとした、そこで聞こえた声。
(…………はあっ!?!?!?)
踏み出そうとしていた足を止めて、一護は思わず壁に張り付いた。そうしてそろそろと壁から顔を覗かせる。
「う、わ……」
思わず声が出てしまって、一護はあわてて自分の口を自分で押さえた。
こちらに背を向けているが、あの後ろ姿は間違いなく日番谷だ。そしてそれに対しているのはショートカットの少女。花柄のワンピースに茶色のライダースジャケット。なかなかの美人だが、見慣れない顔だ。他人に疎い一護だが、その顔と「先輩」という言葉から後輩だろうと想像する。
(つうか、何でこんなとこ……)
確かにあまり来る者はいない場所だが、一護は日番谷にとっては最悪の場所だ。

「悪いが……」
風に流されるが、端々で声が聞こえる。断わるのか!?
ややあって、相手の少女がペコリと日番谷に一礼するとこちら側に駆けてきた。やべぇ!と思ったが隠れる場所がない。
「…………っ」
少女は一護の前を走り去った。前を通り過ぎる瞬間、ちらりと一護に視線をやった。その瞳には涙が浮かべられていて、自分が悪いわけでもないのになんだか落ち着かない気分になる。

「覗き見か、黒崎。いい趣味だな」
「うおおう!?」
一護が呆然と少女を見送っていると、後ろから声がかかった。恐る恐る振り向くと……
「冬獅郎……」
「日番谷だ」
律儀に訂正はしたものの、そんなに機嫌が悪くはなさそうなのにホッとする。ようやく余裕が出てきた一護はからかいまじりの質問を投げる。
「何で断っちまったんだよ?結構かわいい子だったのに」
日番谷が奇妙なものを見るような目付きで一護を見た。一護はたじろいで一歩下がる。
「……何だよ?」
「おまえ、気づいてなかったのか?」
「だから、何がだ?」
フッと軽く笑うと日番谷は一護の先に立って教室へと向かう。途中で立ち止まって、くるりと一護の方を振り向いた。



「……アレは、男だ」



「は?」
一護は目が点になった。男?
「だって、あの子、スカート……」
「男がスカート履くなっつう法律はねぇ」
「そりゃそうだけどよ……」
一護は絶句した。あのかわいい子が、男。しかも日番谷に告白。
何度も言うが、男。
「……男からも女からもモテんだなあ、お前」
「うるせぇ」


*******



日番谷はモテる。
よく知っていたはずのその事項に、一護が「ただし男からも」という但し書きを付け加えたのは言うまでもない。








BACK

どうやら私は水色、啓吾が好きだったみいです。書くの楽しかった!


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!