novel
日番谷隊長の受難
3.謎(六番隊)







――最近、不可解なことがある。


*******



「……では、これにて隊主会を終える。解散!」
総隊長の声に、張り詰めていた空気がゆるんだ。堂々とあくびをしたのは市丸。肩が凝るねぇといいながらぐるぐると肩を回したのは京楽。各々、「総隊長の話は長い」と思っているのは間違いなかった。
もちろん、日番谷もその一人である。
一刻もの間、隊主会に拘束されていたのだ。それはすなわち執務室を離れていたということで――その間着々と書類が積み上がっているのは想像に難くない。

早く隊舎に戻ろうと踵を返し、一番隊隊舎を出ようとしたところで声がかかった。
「日番谷隊長」
静かに響いた声に日番谷が振り向けば、思った通りの人物がそこに立っていた。
「朽木隊長……何スか」
早く帰りたいからさっさとしてくれというオーラがバシバシと出ている日番谷の雰囲気など意にも介さず、落ち着き払ったまま白哉は何かの包みを日番谷に差し出した。
「これを兄にやる」
「……は?」
目が点になった。
差し出されたのは恐らく――菓子の包み。それもたぶん高級な。

隊主会の間それをどうしてたんだとか、どうして俺に?だとか疑問は尽きない。日番谷が疑問符を浮かべていると、白哉はずいと包みを押し付けた。
「やる」
「……はぁ。どうも」
「うむ」
日番谷が受け取るなり、白哉は満足げに頷き颯爽と隊主羽織を翻して去っていった。
日番谷は疑問符いっぱいの顔でそれを見送った。


*******



「……というわけなんだ」
「はぁ。朽木隊長がですか。で?肝心のお菓子はそれですか」
「ああ、……っておい、勝手に開けるな!」
「いいじゃないですか別に。どうせ食べるんですから」
遠慮もへったくれもなく乱菊は包装紙をベリベリと剥がす。乱菊は中から現れたものに歓声を上げた。
「わぁ!」
声に釣られて乱菊の手元を覗き込む。ずらりと並んだ菓子包み。
「久里屋の栗まんじゅうですよ、コレ!栗を甘く煮付けてあるっていう特製の……!……隊長!」
「……なんだ」
乱菊の勢いとそのキラキラした目の輝きに圧倒されて日番谷は一歩下がった。乱菊は無言のまま目だけで訴えてくる。ひしひしと伝わる圧力に、ついに日番谷は屈した。
「……わかったよ。食え」
「わぁい!」
歓声を上げ、いそいそと乱菊は給湯室に向かった。その後ろ姿を見送りながら日番谷はため息をつく。その菓子にかける情熱を少しは仕事に傾けてくれればいいものを。

ほどなくして乱菊が茶を乗せた盆を手にして帰ってきた。乗っている湯飲みが二つであることにちょっとホッとする。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
コトンと卓に茶が置かれ、日番谷は湯飲みを手にしてソファにもたれかかった。茶を一口すすると少し渋目。お茶うけに合わせて淹れてあるのだろう。
「いっただっきまーす!」
元気よく乱菊は言って、包みを一つ手に取った。ベリベリと包装用紙を剥がして、女としての慎みを持て!と言いたくなるくらいの大口で栗まんじゅうにかぶりつく。
「んっまーい!」
「……おいしいと言え、おいしいと」
脱力しながら日番谷もまんじゅうの包みを手に取った。良くも悪くも日番谷の女性観はこの副官のせいでガラガラに崩れている。
日番谷は栗まんじゅうをゆっくりと咀嚼した。ふわりと口の中に広がる上品な甘み。甘すぎることもなく、乱菊が淹れた茶とよく合う。
「うまいな、確かに」
「でしょう!?」
そこで何でおまえが勝ち誇る、と思ったが確かにおいしいので無言のまま咀嚼する。

ほとんどを乱菊が食べ、少しを他隊からの訪問者に出して、その不可思議な出来事は終わった――と思ったのだが。



次は羊羮。
その次は葛餅。
さらにその次は最中。
どれもこれも老舗の超高級品を――白哉は日番谷を見る度に押し付けてくるのである。


*******



「……というわけなんだ」
「はぁ。朽木隊長がっスか」
日番谷は一ヶ月前と同じ会話を、今度は他隊の副官としていた。
日番谷の正面に座るのは阿散井恋次。隣には松本乱菊。双方共に白哉の四回目の贈り物である最中を咀嚼している。

「菓子押し付けられんのは慣れてるが、浮竹と違って毎回む……いや、高級だからな。悪いだろう」
無駄に、と口が滑りそうになったのをすんででこらえた。
「はぁ、そりゃ謎っスねぇ。つうかこんないいモン、俺には絶対くれないっスけど……」
なぜだか落ち込んでしまった恋次に「そりゃあんたじゃ良い物あげても味わかんなそうだもんねー!」と追い討ちをかける。そんな乱菊に一睨みくれて止めながら、日番谷は話を進めた。

「それで、何か知らないか?朽木が急にこんなことするようになった理由」
「はぁ……」
甘い物好きの恋次は、フォローのために日番谷が差し出した二つ目の最中を食べながら視線を宙にさ迷わせた。

「……あ」
「あるのか?心当たり」
「い、いえっ。そんなことはっ」
「なぁに?ここまで来たんだから言っちゃいなさいよ。別に朽木隊長がうちの隊長に懸想してるってんでも驚かないから」
「気色悪いこと言うな」
すいませーん、と悪びれず肩をすくめた乱菊に、日番谷はまたも一睨みくれた。
ダラダラと冷や汗を流している恋次に視線を戻す。
「で?なんなんだ?」
その眼光に――逃げられない、と恋次は悟った。何てことしてくれたんですか朽木隊長!と心の中で本人には決して言えないことをわめく。
「安心しろ。どんな理由だろうとてめぇには怒らねぇよ」
恋次は天を仰いだ。孤立無援だ。自分に火の粉が降りかからないことを祈りながら口を開く。

「……ルキアが」
「あ?」
予想外の名に日番谷と乱菊は目を丸くした。
「ルキアが子猫を拾ってきたらしくて。最近、朽木隊長……」



「……小動物が好きなんです」



ぶほっと乱菊が吹き出した。そのままソファの背もたれにすがり肩を震わせ爆笑している。



動物。
しかも、小。



「……松本」
「はいはーい?」
「おまえ、今までもらったもん皆どこの何だったか覚えてるよな」
「もちろんです」
「直帰を許す。すべて買って――、」
ギラリと日番谷の双眸が光るのを恋次は恐ろしい思いで見つめた。対照的に乱菊はこの上なく楽しそうだ。



「――ひとつ残らず、つっ返せ」


*******



その後、六番隊舎では突き返された贈り物を前に無表情で嘆く六番隊長の姿が見られたとか見られなかったとか。







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兄様が小動物好きだったらかわいいなぁと思ってできたお話。こんな風に書いてますがひつんは贈り物を無下にするような真似はしない子だと思ってます。
和菓子が思い付かなくて大変でした…貧相な頭。




あきゅろす。
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