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小さなあたし。
最後のきっかけ


全てが崩れる音がした。



あたしを呼ぶ声がだんだん弱まっていく姿、
あたしが最後に見たその姿は、
…もう決して忘れることはないだろう。




『◯◯…!◯◯っ…』
『やだ…悟空に何したの?!離してよお!!!』







〈小さなあたし。(5) 〉







「はっ…ぁ」

今でもまだ、あの日の記憶を思い出す度に己の無力さに情けなくなる。
あの時あたしが、もっともっと強かったら…
あたしがもっとしっかりしていれば、未来は違っていたかもしれない…


そうやって、抵抗した悟空をあたしから引き離すために、奴らはあたしの記憶だけを消すことができる注射を悟空に打った。
技術は地球より遥かに進歩していた奴らの凶器は、嫌になるくらい見事に効果を発揮し、悟空はあたしの記憶を無くしたまま、いわゆる部分的記憶喪失のまま1人パオズ山に残されることとなった…

もう悟空の記憶の中にあたしはいない…無くなってしまった。


そして悟空の注射での一方、あたしは睡眠薬で眠らされ宇宙船に引き込まれた。
だけど、そのあと意識が戻った時には何故かフリーザのもとではなく、今あたしが暮らしてる星、コニヤン星にいた。
運が良かったのか悪かったのか、あたしが連れ込まれた宇宙船はフリーザの宇宙船に向かっている途中に軌道が急激に変わり、巨大な隕石に衝突してしまったらしい。
そのため勿論宇宙船は破壊し、あたしは真下にあった小さな惑星に落下した。
無事、命に別状は無かったらしく、地面に倒れていたあたしを偶然コニヤン星からその星に訪問していた神様がコニヤン星まで連れて帰ってくれたのだった。
そこからあたしのコニヤン星での新しい生活が始まり、今に至る…


絶望という名の中、あたしは神様に基礎から修行をつけてもらい、悟空達のような超サイヤ人にもなれるようになった。
数年経つと神様の持つ特別な水晶玉を借りて地球の様子も見せてもらっていた。
だから、ベジータやフリーザ、セルと戦った悟空だって知っている。
今日の天下一武道会もそうだった。


そして、いつの日かあたしは…

『いつか地球に行って悟空に会いたい。』

と神様に告げたことがある。
でも神様から帰ってきた言葉は「どうしてじゃ?」と、ただそれだけ。

…そんなの決まっている。
あたしの大切な…悟空に会うため。

でも…そんな願望は、すぐに心の中から全く綺麗に無くなった。
だって…ずっと夢中で修行して、それなりに強くなって、神様に提案されて一緒に地球の様子、二人別々になってから初めて悟空を見たのは、ラディッツが丁度地球にに向かっている頃だった。

だから…あたしが何年か振りに悟空を見たときにはもう、彼の周りには知らないたくさんの仲間がいて、
そしていつのまにか素敵な奥さんも見つけて結婚していて…
悟飯君という子供もいて。

あたしの置かれている状況とは全く違う悟空に、「あれ?」と呆気に取られながらも、そういうものなんだ、と意外にもあっさり現状を受け止めていたあたしだったけど、
でも、1つだけ確かに思ったのは、

そんな新しい悟空の人生に、
あたしが入り込む必要性なんて、もう無いこと…
立派な仲間も家庭も既に在り、無理にあたしが悟空の元へ急がなくても、悟空は地球で立派に生活している。
あたしがいなくても…悟空はもう、大丈夫なんだ…


それに…神様だってその少し前に言っていた。
サイヤ人達の作った薬はかなり高性能だから、記憶が戻る確率はほぼ無い…って。

だから会いに行ったってあたしと悟空はもう昔のような関係に戻ることなんてできず、「あたしは悟空の妹です」って本当の事を言ったとしても、悟空自身や周りのみんなを混乱させてしまうだけだし、
「記憶が戻らなくてゴメン」なんて言われてしまったらたまったもんじゃない。

…ならばあたしはこのまま1人で、この星から悟空をそっと見守っているだけでいい…
そう思えて、すぐに諦めがついた。


もう地球には行かない。


ーー悟空とは、会わない。





だけどそうやって数年過ごしてきた矢先、
悟空はセルとの戦いであの世へ行ってしまった。
更に生き返ることをも拒否し、もう一生会うことも、水晶玉ですら悟空の姿を見れなくなったと知った時、
また、後悔と絶望感に浸された。


だから一度は考えたことがある。
あたしもあの世に行けば…と。
その時は神様にひどく叱られたっけ…
だけどついこの間、悟空は今日この日に地球に帰ってくると言った。

天下一武道会に出場するために。

1度だけ下界に戻れる日をそれに決めたのは悟空らしいと思った。
その時は本当に嬉しくて、
その様子を見るのを楽しみにしていた。


…はずだったのにまたしても彼の前には恐ろしい敵が現れるもので…
魔人ブウ。今回は相当やっかいな相手らしい。


しかしあたしは決めた。

『神様…あたし、地球に行ってきます』

その時の神様は勿論驚いていた。


『大丈夫なのか』
『はい、悟空は一日経ったら、またあの世に帰ってしまうんです、それならば…』


もう後悔はしたくない。
このまま悟空がまたあの世に戻るなら、その前に、今日だけほんの少しでいいから会いたい。
会うだけでいい。他人としてでいい。
自分の目で、最後に一度だけ、悟空を見る事ができたらそれでいいの。

それに、魔人ブウが出現したおかげで、今回は魔人ブウを倒すために別の星から助っ人として地球に来たのだと悟空達に上手く口実が作れる。
ある日何でもない日に悟空の前に表れても、混乱を招くだけで接するのが難しい...
だからこそ今回は最高のチャンス。
そう固く決意すると急いで宇宙船を準備してもらった。


それが事の全ての始まり。




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