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企画部屋
鶴丸国永の話
鶴丸国永。
「本丸の穴掘り名人」とあだ名される彼の驚きを主に届けようとする姿勢は、もはや感動の域である。まぁ死織本丸の彼は主に害のない驚きを提供しているので、落とし穴はないのだが。
そして彼もまた、彼女の゙兄゙だった。

なんて酷いことを言い放ったのだろうと、今なら思う。
どうして矢面に立たせてしまったのだろうと、今でも後悔している。
なぜ今になってもまだ俺は弱いのだろうと、いつも思っている。
なぁ、主。
俺は君の、゙兄゙足り得ているだろうか?

主が『異能』を使って大怪我をした。
それを聞いたとき、冗談ではなく血の気が一気に下がった。事実軽い貧血でめまいを起こし、隣にいた次郎太刀に支えてもらったほどだ。その支えてくれた本人も、顔色が悪かった。
夕餉の席にはいつも通り主がいたけれど、短刀達に囲まれていて近付けなかった。それでも主が元気に笑っていたから、安心はしたのだ。
―――それでも俺のわずかな不安を見抜く君は、やっぱり最高の主だ。
「鶴さん」
「おお、主か!どうしたんだ?」
その夜、縁側で月を見ていた俺に主は話しかけてくれた。いつものように返したつもりだったが、主には隠せなかったらしい。
「心配かけて、ごめんね」
「―――」
へらりと、力の抜けた笑みを浮かべる主を見て、たまらなくなった。そこにちゃんと存在しているのだという確信がほしくて、力いっぱい抱き締めた。
主の温かな体温が、全身で感じられた。
「……心配、したんだ」
「うん」
ぽつぽつと言葉をこぼす俺を急かすことなく、主はうなずく。それが、どうしようもなく嬉しくて。
「主がまた、いなくなるんじゃないかって、思って」
「うん」
「―――恐ろしかったんだ………!!」
また自分は、守れないのかと。そう思うと、とてつもなく恐ろしくて、目の前が真っ暗になった。
主にすがり付くように腕に力を込めれば、彼女の手が背中に回り、優しく撫でてくれる。
穏やかな声が、耳元に響いた。
「これからも俺は、君達に辛い思いをさせるだろう」
「っ、」
「それでも、君達を『守る』ことを譲るつもりは、毛頭ない」
「あるじ、」
「こんな酷い主だけど……一緒にいてくれる?鶴さん」
どこまでも穏やかで、優しい声だった。俺は泣きながら、答えを返す。
「当たり前だ………!!」
「……ありがとう、゙鶴お兄ちゃん゙」
「………〜〜っ」
もはや嗚咽しか出せず、俺は子供のように泣きじゃくった。そんな俺を、主は優しく抱き締めてくれていた。

愛しい主。俺は、君の゙兄゙でいていいのか?こんなにも情けなく弱い俺を、゙兄゙と呼んでくれるのか?
尽きない疑問は、主の微笑みでかき消される。穏やかで優しいその微笑みは、俺の心を柔らかく照らしてくれる。
だから、その笑顔を守りたいのだ。そのためだったら何も惜しまない。唯一無二の主だから。大切な、゙妹゙だから。

―――君に届けたいのは、精一杯の慈愛。


     


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