企画部屋 万屋へ行こう・伊達組編 「主、買い物一緒に行かないかい?」 「お買い物?行く!」 ぱぁっと顔を輝かせた死織を見て、燭台切も頬を緩めた。 「………で、なんで2人はいるんだい?」 「抜け駆けは許さんぞ、光忠?」 「右に同じだ」 妙にいい笑顔の鶴丸が発言し、それに倶利伽羅が同意する。燭台切はもう何も言わず、 ただため息をついた。 「鶴さんと伽羅さんも一緒に行くの?」 「いいかい、主?」 「うん!みんなで行った方が楽しいよー」 えへへ、と笑う死織につられるように彼らも笑う。先日の事件で赤くなっていた頬も、 今ではすっかり治っていた。 倶利伽羅と手を繋いで歩く死織は、この前と同じようにきょろきょろとしていたが、 人とぶつからないように細心の注意を払っていた。それに加え、さりげなく倶利伽羅や燭台切達が通路を開けている。 食料品の買い出しを終え死織を見やれば、 彼女は1つの雑貨屋の前で佇んでいた。 「主、どうかした?」 「ん?あのね、あれ何かなと思って」 ついっと伸ばされた指の先を見やれば、そこにあったのは色とりどりの髪紐。 「ああ、あれは髪紐だよ」 「かみひも」 「髪をまとめて縛るためのものだよ。主は初めて見たかい?」 「うん。あれ髪紐って言うんだ」 ふぅん、と不思議そうに髪紐を見つめる主を見て、燭台切は笑う。 「なんなら一本買おうか?主の髪、伸びてきたしね」 「あー、邪魔だなぁとは思ってるけど………いや、いいよ。今困ってないし」 「そう?遠慮しなくていいんだよ?」 「じゃあ甘味処で休憩しよ。俺はぜんざいが食べたい」 「はいはい」 くすくすと笑う燭台切を睨むように見て、 死織は頬を膨らませる。そしてふと、辺りを見回した。 「………ねぇ燭さん」 「何、主?」 「伽羅さんと鶴さん、いないよ?」 「え?……あ、本当だ………」 はぐれたかな、そう呟いた燭台切の隣で、死織は往来をじっと見つめる。 その黒い瞳が、゙何がを捉えた。 「燭さん、こっち」 「え、主?」 突然迷いなく歩き出した死織の後を追い、 燭台切は早足で歩く。どんどん往来を離れ小道に入っていく主の背中を見つめながら、彼は嫌な予感がしていた。 そうして、たどり着いたその先で。 「……………」 地に倒れ伏す2人の姿を、見ることになる。 「―――おい」 異能を発動して鎖で馬鹿審神者とその近侍を縛り上げ、俺はいい笑顔で声を発した。すでに伽羅さんと鶴さんは目を覚まし、燭さんと一緒に様子を見ている。 「何が目的ですかね。返答次第によっちゃ通報案件ですが」 「ふん、あたしが役人に捕まるわけないじゃないの」 ほう、ブラック審神者かそうですか。しかもそこそこの立場があって、自分が捕まるとは夢にも思っていないと。ほーお。 「ほら、あんたもどうせ同じ穴のムジナでしょ?でもあたしの方が強いの、だから鶴丸寄越しなさい」 『主を侮辱するな』 「おう、3人共落ち着いて?」 今まで静かだった3人が「同じ穴のムジナ」 発言に一斉に抜刀した。せやな、゙妹゙溺愛してる゙お兄ちゃん゙が聞いたらそらじっとしてられへんよな。 ………なぜか関西弁になった、ちくせう。 「主を、君みたいなのと同じにしないでくれるかい?」 「燭さーん、戻ってこーい」 「アンタは口を出さないでくれ、これは俺達の矜持の問題だ」 「そうだぞ、主?こういう輩は、きちんと懲らしめてやらねばな」 (こあい) 鶴さんいい笑顔過ぎて逆に怖い。しかし、ここは止めねばならぬのだ。 「3人共、やめて」 「だから口を出すなと、」 「やめなさい。君達が手を汚す必要なんて、 ない」 人は人が裁かなければいけないの。神様が手を下すなんて、そんなこと、本来あっていいはずがない。だから。 「今、助けてあげる」 「………ぁ」 「手遅れにならないうちに助けてあげる。だから一言言いなさい、声を上げなさい」 確か彼は、大和守安定、だったはずだ。うちにはいないけど、審神者によくなつく刀だという話をさにちゃんでよく見る。彼が声を上げるのは難しいかもしれない、けれど。 まだ心は、死んでいないから。まだ手遅れではないから。だから、大丈夫。 「た、すけ、て」 「―――聞こえたね、担当さん」 『ええ。至急そちらに人を向かわせます』 すでに繋いでいた担当さんとの通信がぶつりと切れる。不幸中の幸い、俺の担当さんは今時珍しいホワイト役人だ。ホワイト監察官を派遣してくれることだろう。 これで、彼らはこれ以上苦しまなくて済む。 「よく、声を上げてくれたね」 「あ、僕、」 「ありがとう」 微笑んでお礼を言えば、彼は顔をくしゃくしゃにして、泣いた。 『主尊い』 「君ら通常運転過ぎるでしょ」 死織が刀達にツッコむ。しかし誰1人としてそれを聞く者はいなかった。 結局また甘味処で休憩はできず、大福を買って帰ってきた死織達だった。今日起こったことをかいつまんで話せば、冒頭の言葉が帰ってきたわけで。どうしてこうなった。 「主が尊すぎて、僕生きていくのが辛い………」 「俺君の頭の中本気で心配」 どうなってんだその中身、と呟く死織は苺大福をかじる。もっきゅもっきゅと口を動かし、飲み込んだ。 「主可愛い(真顔)」 「帰ってこい」 スパンッ、と長谷部が青江の後頭部を結構容赦なく叩く。その様子を見ながら、死織は今日も平和だと思ったのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |