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企画部屋
万屋へ行こう・左文字編(リクエスト、かずこ様へ)
「あれ?そういえば………」
それは、何気ない死織の言葉が発端だった。
「俺、戦場以外で外出たこと、なくね?」

マジびっくりした(真顔)。
いきなり燭さん達がむせび泣くから本当にびっくりした。だって、買い物とか通販でできるし、欲しいものとかないし。だから今まで困ってなかったんだけど………。
「よろずや………ってどこにあるの?」
「大丈夫だよ主。僕達がちゃんと案内するから」
「うん。じゃあ頼りにするよ小夜くん」
現在、燭さんに買い物を頼まれて万屋へ行くところです。お供は左文字兄弟。兄2人は荷物持ちとして付いてきました。……そんな量頼まれた訳じゃないんだけど………。
ほぼ初めてと言っていい外に、俺は目移りしてしまう。他にも刀を連れた審神者達がいて、なんとなくだけどわくわくしてしまった。
「主、着きました。ここが万屋ですよ」
江さんの声に顔を上げて、俺はぽかんと口を開けたまま立ち尽くした。

死織が衝撃の一言を言った瞬間、朝の穏やかな食事風景が一変した。まず燭台切と長谷部、その他多くの短刀達がむせび泣き、三条組と神刀組は顔面蒼白、蜻蛉切や山姥切、
同田貫が無言で死織の頭を撫でた。本人は首を傾げ、何がなんだかわからないという顔をしていた。
そして燭台切は思い付いた。そうだ、主に買い物を頼もうと。
審神者の業務をしに自室へとこもった死織に気付かれないように全員を大広間に集め計画を伝えると、それぞれが無言で親指を立てた。
そして始まったのが、一緒に行くお供を決めるじゃんけん大会。勝ち抜いたのは左文字兄弟だった。もはや執念とも言える。
悔しさに歯噛みする彼らを救ったのは、もちろん主である死織だった。
「他の人達も、今度一緒に行こうね」
約束ね、と笑う彼女に、誰も反論などするはずがなかった。

「万屋って、すごいね!」
キラッキラの笑顔で、死織はそう言った。買い物のメモを握り締め、江雪達の周りをぐるぐると回る。
「すごーい!なんかよくわかんないけどすごいってことだけわかる!!」
「主、落ち着いて下さい。はしゃいでいて良いですから、前を見て」
「うぃ!」
宗三が微妙な止め方をし、死織も特に反論することなく笑顔で頷く。万屋の中には数人の客がいて、はしゃぐ死織を見て目を丸くしていた。
死織はメモを確認し、深呼吸を一回。小夜の手を握り、笑った。
「じゃあお買い物始めよう!」
まずはお野菜からだね!
大根、人参、じゃがいも〜と口ずさむ楽しげな様子の死織を見て、江雪はそっと目頭を押さえる。………だいたい審神者が戦場に行くこと事態変だ。それは信用されていないのではなく、彼女の信条によるものだけれど。そして、今の今まで死織が外に出ていないことに気付かなかった自分達も悪い。
心底申し訳なかった。
涙をぐっとこらえ、江雪は顔を上げる。怪しい人物がいないか目を凝らし、死織に寄り添った。
順調に買い物を済ませ、甘味処が併設してあることを死織に伝えると、じゃあそこで休憩しよっか、と笑った。
その移動中に、事件は起きた。

今俺の目の前に広がるのは、無表情な江さんと、逆にいい笑顔な宗さんと、無言で刀を構える小夜くん………って、いやいやいや。
な に が お こ っ た。
俺は遠い目で、回想に入った。
甘味処に向かっていた俺は、ちょっと周りへの意識が足りなくて男の人と肩が触れ合ってしまったんだっけか。
「あ、すみませ、」
「……何してくれんだ、あぁん?」
その時点で俺は、お?これヤバイ奴や。とは思ってた。その人は若干お酒臭くて、こんな昼間から呑むのはいかがだろうかとか思ってた。
「本当にすみません、お怪我ないですか?」
とりあえず丁寧に対応して、早く甘味処行きたい。意識の片隅でそう思っていると、ふと男の人の目線が俺の後ろ……もっと言うと、江さんに向いた。
………嫌な予感が、した。
「なら詫びに、その江雪左文字寄越せ」
「いや誰が」
「………あぁ?」
「聞こえませんでした?誰が、って言ったんです」
思わずいい笑顔で言っちゃったよね。その後がまずかった。
なんと僕様ちゃん、張り飛ばされたのである。冗談抜きで軽く吹っ飛んだ。江さんが受け止めてくれなければ、ほっぺ以外にも怪我してたような気がする。
そして現在に戻る。
………俺、悪くなくね?悪いのってあっちの男の人だよね?……だよね?
「小夜くん、危ないからそれ仕舞いなさい」
「………でも」
「大丈夫だから、ね?」
笑って頭を撫でれば、渋々と刀を鞘へ仕舞う。1つ息を吐いて、少し熱を持つ頬を吊り上げた。
「さて、暴行罪で検挙しましょうか?」
「お、俺は悪くない!」
「おや、何を仰っているのやら」
素晴らしい笑顔を浮かべた宗さんが男の人に反論する。………んー、これは相当怒っていらっしゃる。
「この場にいる誰もが、主が悪いなどと思ってはいませんよ。あなた、何か勘違いをしていませんか?」
「………私の主に平手打ちをしたこと、この場で謝ってもらいましょう」
相変わらず無表情なまま、江さんが静かに声を発する。……うん、こちらも相当怒っていらっしゃる。小夜くん?言わずもがなですがや。
ふう、と息を吐いた。
「まぁ謝らなくてもいいんで、早く視界から消えて下さい。貴方の相手をしていられるほど、こっちは暇じゃないんで」
「っ、このっ……………!」
「な に か?」
人が優しく言っているうちに早く消えてしまえ。さもなければ。
「物理的にこの世とおさらばしますか?うちの刀剣は過保護なので、早くいなくならないと本気で斬られますよ」
偽りなく事実のみを告げると、男の人は顔を蒼白にして足早に立ち去った。……良かったね、一緒にいたのが青さんや石さんじゃなくて。じゃなきゃ今頃呪われてたと思う。
「主、よろしいのですか?」
江さんが問いかけてくる。俺はそれに笑って返した。
「いいよ別に。そんなことより江さん達が手を汚さなくて良かった。あんなの放っとけばいいんだよ」
それは紛れもなく、俺の本心だった。

『よし、呪おう』
「全会一致かよ予想通りだな」
結局甘味処で休憩することはできず、ならばとお土産に団子を買ってきた死織だった。幸せそうに頬ぼっているが、その右の頬は赤い。
「僕達が付いていながら………面目ありません」
「だぁいじょうぶだってば。腫れぐらい生きてりゃ治るんだからさ」
なめらかなこし餡の食感を楽しみながら死織は言う。三日月が大きくため息をついた。
「まったく、主はいつも事件の渦中にいるなぁ」
「トラブルメーカーみたいに言うの、やめてもらえません?」
ぷぅ、と頬を膨らませて死織は反論する。しかし、不意にへにゃりと相好を崩した。
「でも、お買い物楽しかった」
また外行きたい。
弾んだ声で話す死織を見て、全員目頭をそっと押さえた。

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