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異能審神者の憂鬱
いさかい
こ れ は ひ ど い。
俺はため息をついて、目の前の光景を見やる。
伽羅さん、同さん、長谷さん、山さん、刀の柄に手を添え、いつでも抜刀準備OK。こぎさんと青さんは抜刀済み(←おいお前ら)。
岩融さんは本体である薙刀を構え、獅子王さんは刀に手を添える。そんな彼らをまとめる立場にある鶴丸さんは、それを面白そうに眺めていた。………いや、止めろよ。
賢者モード発動中の俺のそばには、血の気が多い彼ら以外の17口の刀剣がいる。心配そうに俺を見たり、背中を撫でたりしてくれていた。………いや、君らも止めよーよ。特に江さん、いつも和睦和睦言ってんじゃん。和睦させよ?させようよ!!てか膠着状態長ぇよ!!なんなんよ!?
「君、止めないんだな」
表面は賢者モード、脳内は荒ぶる俺に鶴丸さんが声をかけた。いや止めたいとは思ってるんだけど、今体力の消費が激しくて動きたくないごにょごにょ。
「折れればいいとでも思っているのだろう」
「岩融さん表出ろ。殴り合いなら付き合ってやる」
一瞬にしてプッツンした。ぁんだって?折れればいいと思ってるだって?いい加減にしろよ本気でぶん殴るぞマジで。
膝を立てて立ち上がろうとした俺を、周りの刀剣達が慌てて止める。いやだから、俺を止める前にあっちを止めろよ!!
「主、お止め下さい!」
「相手薙刀だぞ!?女の大将が敵うわけないだろ!?」
「主、家臣の手打ちならば俺g「長谷さん後で俺とお話しようか?」申し訳ありません!!」
謝るの早ぇ。びっくりした。てか宗さん・げんげん・長谷さんの織田組に止められたぜよ。どういうことだってばよ。
仕方がないので、懐からカッターを取り出して手の中で回す。………物理で止めることだって、本当はできるんだけど。音を立てて刃を出して、目の前に翳した。
「―――さて」
俺の『異能』を知ってるルナさん達が身を固くする。短刀達は不安そうに俺を見上げた。そんな彼らに、俺は笑う。
「いい加減にしなさい?やめないのならば、眼球を抉る」
誰の、とは言わない。けれど鶴丸さん達以外には通じたらしかった。ここら辺は、みんな俺のことをよくわかってる。
「……………主、やめろ」
「やめるのはそっちが先。理不尽かもしれないけど、言葉じゃ君らは止まらんべ?」
俺の体ぐらい。俺の命ぐらい。天秤にかけるには、あまりに軽いそれら。
「君らが傷付かなくて済むのならば、たとえこの四肢を失おうとも気にしないし。目の1つくらいなおさらでしょ。それとも耳を削ぎ落とそうか?骨はないから、結構簡単にいくと思う」
でもその代わり痛そう。出血量はどっちが多いかな。じっと刃を見ながら考えていると、カッターを取り上げられた。視線を上げれば、ルナさんの姿。
彼は刃を仕舞うと、俺と目を合わせる。
「どうにも俺達は、主と相性が悪い」
「自ら傷付きに行く主と、何もかもから隔離して守りたい刀剣だからでしょ。そればっかりは、仕方ない」
死にたがりの半狂人。そんな自分が、まともに生きれるわけがなかった。すべてを失ってなお生きたいと思う者が、いったいどこにいるのだろう。
「使えるものはなんでも使う。俺の体も命も、君らを守るためならばいくらでも差し出そう。折れることは、許さない。絶対に」
残酷。どうしようもないほどに残酷な現実。そんなことは、最初からわかっていた。あの、すべてを失い、諦めた日に。
立ち上がって流れるようにルナさんからカッターを奪い、俺は部屋から立ち去った。

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あきゅろす。
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