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異能審神者の憂鬱
夕焼け
「………」
眠りの淵から、ゆっくりと覚醒する。おぼろげな、形を取ってすらいない悪夢の気配を振り切って目を開けた。瞳に映された世界は赤く紅く染まり、昼間が終わることを告げていた。―――夢であれば、よかったのに。
夢でありさえすれば、こんな思いをすることもなかっただろうに。
「…この世は、苦界。生きることは、罰」
生き地獄なんてまだ優しい。生きている限り続く責め苦なんてどれだけ慈悲深いのか。何もかもをなくした、それこそ希望も絶望も失ったまま生きていくなんて、どんな言葉にも言い表せない拷問だと思う。
ねぇ、俺笑えてる?今の俺は笑うことが出来てる?
空洞で空虚な俺は、笑うことが出来るのかな?
すべてを拒絶するように閉じたまぶたを、優しい温もりが撫でた。不意に泣きそうになって、もう一度目を開ける。……優しい優しい太陽が、赤い光をくれていた。
赤い夕焼け。今まで見てきたものよりも、一番鮮やかで一番綺麗だった。ささやかな贈り物を受け取って、俺は夕焼けを見つめていた。

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