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異能審神者の憂鬱
鶴丸国永の事件簿
とある小さな出来事が、巡り巡って大騒動に。
そんな波瀾万丈な本丸の日常を、ご覧あれ。

鶴丸国永の代名詞、「落とし穴」。ブラック本丸産だった彼も例に漏れず、愉快な驚きを提供しようとしていた。
まず被害に遭ったのは、まさかの江雪左文字。花を愛でながら兄弟で散歩していたところ、彼だけがボッシュートされた。小夜は呆然と固まり、宗三は般若の形相で「鶴丸ー!!」と叫んだ。
駆け付けた鶴丸には宗三の黄金の右ストレートが唸りをあげたという(鶴丸:軽傷)。
第2波は、なんと大倶利伽羅。彼は落下したあとしばらく固まり、自力で脱出し、鶴丸を見つけて背中にハイキックをかました(鶴丸:軽傷)。
第3波、一期一振。目撃していた弟達がギャン泣きしながら救出した。その後、一期の本気のお覚悟が鶴丸を襲った(鶴丸:中傷)。
第4波、鶯丸。綺麗に一回転して着地した彼は朗らかに笑い、自力で脱出した。鶴丸には「良い驚きだった」と声をかけたらしい。しかし燭台切に思いっきり頭をはたかれていた(鶴丸:中傷)。
第5波、へし切長谷部。落ちた瞬間崩れたカモフラージュを足場に地面まで飛び上がり、走った勢いを殺さず鶴丸へと回転しながら回し蹴りを放った(鶴丸:中傷)。
第6波、太郎太刀。彼はぽかんと空を見上げ、「………鶴丸殿ですか」と呟いた。次郎太刀は普段見せない機動を発揮しそのまま己の本体を鶴丸へと振り抜いた(鶴丸:重傷)。
第7波、三日月宗近。彼は優雅に着地したあと脱出。石切丸の全力のはらきよを受ける鶴丸をほけほけと眺めていた(鶴丸:重傷)。
そして最後に、意外な人物か落ちることになる。

「――う、わぁっ!?」
ずる、と足元の地面が崩れる。そのままぽっかりとした黒い口を開け、その人物を飲み込もうとした。
「主っ!!」
加州が伸ばした手は、惜しくも届かず。―――本丸中に、彼の悲鳴が響いた。

その後。
「………捻挫、だな。それも相当酷いやつだ。大将、しばらくは歩くんじゃねぇぞ」
「そもさん立てないんだけど……………」
困ったように笑い、死織は首をかしげる。
加州の悲鳴を聞きつけ集まった刀剣達に救出された彼女は、痛みに顔を歪めていた。薬研の診察によって捻挫と判明し、そして今、立てないことが解った。ゆっくりと、彼らの視線が背後へと向く。
そこには、縄でぐるぐる巻きにされた鶴丸が、天井から逆さまにぶら下がっていた。
「………ほ、本当に申し訳ない……………」
『謝って済むなら敵はいらねぇんだよ』
「ごもっとも………」
冷や汗をだらだら流しながら彼は呟く。その彼の周りを、今まで説教をしてきた刀達が囲んだ。
「僕言いましたよね僕達だけが落ちる訳じゃないんですって主が落ちたらどうするんですかって主落ちたじゃないですか可哀想に怪我までしてどう責任取るんですか鶴丸?」
「待て宗三、君一息で言い切ったぞ!?」
主への過保護が留まるところを知らない宗三が句読点を打たずに言い切った。思わず鶴丸が突っ込むレベルで。肺活量が半端ではない。
「………国永。俺に仕掛けるのは構わないが、主を巻き込んだ罪は重いぞ」
「正論過ぎて何も言えない(白目)」
何しろ死織は人間である。手入れで直る彼らと違い、完治するのに最低でも1ヶ月はかかるであろうと予想された。
「鶴丸殿、お覚悟はよろしいですかな?」
「流血沙汰はやめよう!!」
輝かしい笑顔で柄に手を置く一期を鶴丸は止めた。さすがに折れる。冗談ではなく。
「鶴丸さん、どう考えてもあなたが悪いからね?次はないよ」
「承った」
燭台切の後半のガチトーンに鶴丸は真顔で答える。顔は笑ってるのに目が笑ってないってどういうことなの。
「………鶴丸国永、今後はもちろん穴は掘らないよな?」
「もちろんです!!」
ここではいorYES以外を言ったら殺される。
そう肌で感じながら鶴丸は長谷部に答えた。彼は満足そうにうなずいた。
「………もう一発、食らってみるぅ?」
「勘弁して下さいお願い致します!!」
己の本体を振りながら次郎太刀が笑う。とても凄みのある笑みだったことをここに記す。
「灸を据えたつもりだったんだが………まだ足りなかったようだね」
「いえ、もう結構です」
真剣に悩む石切丸に鶴丸は乾いた笑いを向けた。精神は重傷である。本気で。
そんな混沌とした輪に近付く影が1つ。
「鶴丸はん」
その声のあまりの冷たさに、鶴丸はゾッと身を固くした。おそるおそる視線を向けた先には、笑顔の明石が立っていた。
―――白い彼は悟った。これはやばいと。
最近ドロップした明石は、同田貫から色々聞かされ見事に死織の過保護筆頭の仲間入りを果たした刀だ。他の個体の「明石国行」より、だいぶ沸点が低い。死織に関すること限定で。
そして今回は、その死織に関することな訳で。
「主はん、痛い思いしなはったんや」
「謝って済むと思わんでくれます?」
「とりあえず、」
すらりと、鋼の輝きが目を射る。
「――その首、頂戴しましょか」
「ストップ、うあっ!!」
慌てて止めに入ろうとした死織は、前のめりになった瞬間自分を支えきれず、そのまま畳に倒れ込んだ。助け起こそうとする手を振り払い、ずるずると這って明石に近付く。
「あかさん、物騒なこと言わないで」
「……………せやですけど、」
「生きてりゃ怪我なんて治るんだからさ。しばらくはみんなのお荷物になってごめんだけど、構ってもらえるって考えれば俺的に損はないし」
『主天使かよおぉぉぉぉっ!!』
青江と加州が討死した。江雪は天を仰ぎ「ここは楽園です………!」と呟いた。
明石はぱちくりとまばたき、苦笑して刃を収めた。
「主はんがそうおっしゃるなら、自分はもう何も言いませんわ。でも、無理はなさんといて下さいな」
そう言って、軽々と死織を抱き上げた。安心したように、彼女は笑う。
「あのー、俺は………?」
『しばらくぶら下がってろ』
「アッハイ」
鶴丸は誓った。もうこんなことはしないと。
………彼とて、死織に怪我をさせたのは心苦しく思っているのだから。
それから、鶴丸が落とし穴を掘ることはなくなったのだった。

     


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