異能審神者の憂鬱 加州清光@ ――――刀剣男士とは。 審神者の力をもって顕現し、肉の身体を得、自らの手で本体である刀を振るい、歴史を変えようとする者の手先を葬る者。 己の名は、加州清光。 自らの使命と名を確認し、顕現されたばかりの加州は眼を開いた。 そして、口上を述べる。 「あー、川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能はいい感じってね」 自分を見上げて目を丸くする、眼鏡をかけた女人へと声をかけた。 「あんたが、俺の新しい主?」 「………は、」 「?」 「初ドロだー!!」 叫んで喜びで頬を赤くした彼女は、自分の両手で彼の両手を掴み、ぎゅっと握った。 満面の笑みで、口を開く。 「初めまして、加州清光さん!この本丸を任されている死織と言います!あなたは今日から、俺の新しい゙家族゙だよ!!」 よろしく、お願いします! 心の底から嬉しそうに笑う主をじっと見て、加州もまた、笑った。 「うん。よろしくね、主」 新しくやって来た加州を、先に本丸にいた刀剣達は温かく迎え入れた。加州の隣では、やはり死織が嬉しそうに笑っていて。 「あ、そうだ」 本丸を案内している最中、ふと思い出したように死織が加州へと振り向く。 「あのね。加州さんのこと、清さん、って呼んでも良い?」 「構わないけど………」 「やった!………家族゙は、やっぱり゙家族゙だけの呼び方したいでしょ?」 にこりと笑う死織に、加州も笑い返す。―――この本丸は、空気が酷く穏やかだ。 2人がほのぼのと笑い合っているところへ、乱が走ってきた。 「主様っ!」 「おー、乱ちゃん。もうおやつだっけ?」 「そーだよ!あ、加州さん、あとで鬼ごっこしよう?」 「鬼ごっこ?」 「うん。身体動かすの、慣れておいた方が良いよ」 乱の言葉を受け、加州は少し考え込む。いずれ戦場に出ることになるのだし、準備運動として最適だろうとの考えに至った。 「わかった。混ざっても良い?」 「喜んで!」 「じゃあ俺、応援するね」 言いながら差し出された手を、加州は不思議そうに見つめる。死織は同じように乱にも手を差し出し、少年は笑顔でその手を握った。 彼女は加州を見上げ、にこりと微笑む。 「手、つなご?」 彼は一つまばたき、照れたようにはにかみながら、死織の手を取る。 その手は彼よりは少し小さくて、でもとても、温かかった。 加州が本丸に来て、1ヶ月が過ぎた。無事に初陣も済ませ、元からいた刀達ともある程度交流している。 「やぁ、加州くん。だいぶ慣れたかな?」 「あ、燭台切さん。おかげさまでー」 燭台切は、加州のことを気にかけよく声をかけてくれる刀だ。審神者界では「オカン」と呼ばれている彼だが、この本丸では「兄」だ。 「しかしホント、燭台切さんってば主のお兄さんだよねー」 「まぁね。………君に、話しておきたいことがあるんだ」 柔らかく笑い、しかし瞳には真剣な光を宿して、彼は言った。それを受けて、加州も背筋を伸ばす。 「俺が、知っておくべきこと?」 「うん。―――主の、ことなんだ」 聞いてくれるかい? 問いかけられ、加州は力強くうなずく。燭台切もうなずき、一つ、深呼吸。 そして彼は、主の過去を語り出した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |