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異能審神者の憂鬱
帰って来た時のこと
(……何コレェ………)
死織は目の前の光景を見つめ、それから遠い目をしていた。

うん、変だとは思ってたんだ。
なんか人数足りないなーと思ってたら、そうだ、鶴さん達がいないんだと気付いて。
なぜだろうと首をかしげたら、みんないい笑顔で大広間に連れてってくれて。
障子を開けたら、鶴さんは天井からぐるぐる巻きで吊るされ。
その他の皆さんは、土下座していた。
………何コレェ………。
一瞬にして固まった俺の前に土下座する岩融さんが、その体勢のまま口を開いた。
「我らが新しい主に、慎んで謝罪申し上げる」
『誠に申し訳ありませんでした!!』
「え、あの、こちらこそ、心配かけてすみませんでした……?」
大絶賛混乱中ながら、とりあえず正座して頭を下げる。が、彼らは一斉に顔を上げ、口々に俺をフォローした。
「いえ、それは私達を守るために貴女が負ったもの。本来ならば私達が負うべきものを、貴女が肩代わりして下さった。感謝してもしきれません」
これは太郎さん。
「主ちゃんが痛い思いをすることはなかったんだ、本当は。ごめんね、アタシ達のせいで………」
これは次郎さん。
「あるじさまがわるいわけがないです!わるいのはぼくたちなんです、ごめんなさい………」
これは今剣くん(泣きそうだった)。
「主よ、頭を下げてくれるな。俺は、守るべき主を守れなんだ。謝罪を求めるのはこちらだ」
これは岩融さん。
「主、俺は何も言えないよ。何も言う資格がないんだ。ただ、君が負ったその傷は、一生消えない疵(キズ)になる。その大罪を、どうか赦さないでくれ」
これは鶯丸さん。
「あんたが謝らないでくれ!あんたに傷を負わせた、そんな俺達に、あんたが謝る必要はないんだ……………!」
これは獅子王さん。
「………主、すぐに謝れなくてごめん。だから、主が謝る必要はないよ。俺達が、悪いんだから」
これは蛍丸くん。
「……………主には、酷いことをした。だから、ごめんなさい」
「わたくしからもどうか謝罪を!本当にすみませんでした!」
これは鳴狐くんとお供くん。
俺は彼らと目を合わせ、ゆっくりと口を開く。
「゙家族゙を守るのが、゙家長゙である俺の役目だから」
『……………っ!』
「無茶をしたのは俺の方だから。それについては、俺に非がある。゙家族゙に心配をかけるのは本意ではないけれど、そうなってしまうのは仕方がない。………だから、ごめんね」
そして俺は、君達を許そう。
君達がああなってしまったのは、本来ならば人間である俺達の方に非があるのだから。
そう言って、俺は笑った。

―――ああ、本当に。
僕は主の背中を見て、目を細める。………何があろうど家族゙を守ろうとするその小さな背中を、ただ支えてあげたかった。そのために、強くなりたかった。
でも、まだ彼女ほど強くはないのだと、思い知る。
「君達は俺の大切な゙家族゙だから。守り抜くよ、俺の最期の瞬間まで」
その言葉に。堪え切れなかったのだろう、今剣くんが涙をこぼした。嗚咽をもらすその背中を、岩融さんが撫でる。
「………泣かないで、俺の゙弟゙。今くん、って呼んでも、いいかな?」
「………っ、はい、はい………!」
涙を必死で拭い、今剣くんは不器用に笑った。それに笑顔を返し、主は手を打ち鳴らした。
「さぁ、湿っぽい話はこれで終わり!これからは、楽しい話をたくさんしよう!」
『はい!』
―――僕達に、新しい゙家族゙ができた瞬間だった。

「えーと」
かりかりと死織はこめかみをかき、苦笑を浮かべる。
それに対し、燭台切は首を振った。
「駄目だよ、主」
「まだ何も言ってへんがな」
「鶴丸さんを下ろそう、って言うんだろう?」
「わかってるなら………」
「鶴丸さんにはお仕置きが必要だからね。しばらくは吊るしておかないと」
実に良い笑顔で言った燭台切の言葉に困ったように眉尻を下げ、死織は助けを求めるように倶利伽羅へと視線を向ける。彼は少し息を飲み、真剣な顔で彼女と目を合わせた。
「主、アンタの頼みでもこれは聞けない」
「大丈夫だよ、鶴丸さん丈夫だから。3時間くらい吊るしておいても大丈夫」
「3時間も吊るす気なのか、光忠………」
鶴丸が乾いた笑いを浮かべると、死織が心底申し訳なさそうに彼を見た。
「鶴さん、ごめんね」
「君が謝る必要はないさ。元々は俺が悪いんだからな」
「本当にね。だいたい主に向かって折る発言したんだって?いくら鶴丸さんでも言っていいことと悪いことがあるだろう。それから………」
と、燭台切の説教タイムが始まった。あーこりゃ長いな、という顔をした死織は同情の眼差しを鶴丸に向ける。そこへ、長谷部がおぼんを片手にやって来た。
「主、失礼します」
「ん、長谷さんどうしたの?」
「お茶とおやつを持ってきました」
「……………」
死織は真顔で長谷部を見た後、諦めたようにため息をついて座った。その前に、長谷部が手早くお茶とおやつを並べていく。
「倶利伽羅、お前にもだ」
「………すまない」
「では主、御前失礼します」
「うん、長谷さんありがとう」
笑顔で長谷部を見送り、彼の姿が見えなくなったとたん死織は額に手を当てて首を振った。………どこの世界に吊るされて説教を受けている神様の前でお茶をする人間がいるのだろうか。
あ、ここか。
「一気に疲れた気がする………」
本当に疲れた声で死織は呟き、お茶を口に含む。そして、説教をする燭台切と説教を受ける鶴丸を小1時間ほど眺めていた。


     


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