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異能審神者の憂鬱
手入れと雑談
目を伏せ、労るように刀に触れる。拭紙で余分な打ち粉を拭き取り、彼女は微笑んだ。
「はい、最後の一振り。どーぞ」
目の前に差し出された柄を同田貫は黙って受け取った。のびー、と彼女は両腕を上に上げる。
「あー、終わったー…寝る」
「は?って、おい!?」
ぱたっと万歳したまま彼女は前のめりに倒れ込んだ。山姥切が声を上げれば、顔だけこちらに寄越す。
「なんだよ。言ったろ、俺は寝るんだ」
「寝てもらっては困りますっ!!」
突如、ぽんっと音を立てて審神者のサポート役、こんのすけが現れる。彼女は彼に対し、「あー、こんこんだー」と間の抜けた声を上げた。
「変な呼び方をしないで下さいっ!いいですか審神者様、貴女には課せられたノルマがありまして、」
「あ、それやらなーい」
「……はい?」
ぐでーっと畳になついた彼女は、刀剣達の前で職務放棄をして見せた。あまりの衝撃にこんのすけは何も言えず、ただ口をぱくぱくさせる。
「な、何故ですか?」
「んー、だって興味ないしやぁ。半分どころか8割方強制だったやん、そんなところで働く気なんかないん。だからやーらない」
「え、でも、お給金とか、」
「お金なんかのためにやることなん?コレ。
いーや、やらんと言ったら俺はやらん」
「さ、審神者様……」
その後も彼女は、だいたい神に仕えるという覚悟やら心意気やらが足りない者を審神者にするからブラック化するだの、神降ろしと同じようなものなんだからせめてイタコさんや口寄せが出来る人間に任せた方がいいだの、なんだったら天照大御神の血を受け継ぐ皇族に畏れながら協力を仰ぐべきだのetcetc。
「そもそも付喪神様というものはだね」
「あ、はい」
「お生まれは天津神や国津神と違うけれども、それでも立派な神様なわけ」
「存じております」
「本当に?元はただの物だろうとも、そこに心が宿り意思が宿り、そして今肉体を持って顕現して下さったのだから、最上級の敬意と畏怖を持って奉らねばならぬのよ」
「あ、はい」
「神の末席におられる方々だからこそ、奉り方を間違えればすぐに堕ちておしまいになる。人間の身勝手な理由で神が堕ちるなど、本来あってはならない」
「はい……」
「もし堕ちてしまいそうになっているならば放って置かず、すぐに魂鎮めの儀を執り行うなりなんなりして赦しを乞うべきだったんじゃないの?」
「貴女は神職系の方でしたっけ…?」
「ただのオカルトマニアですが何か?」
「えっそうなの?」
思わず燭台切が声を上げ、慌てて口を塞ぐ。
あまりにもすらすら言うものだから、てっきりそっち系の血を継いでいるのかと思ったらしい。
「オカルトマニア……恐るべし」
「あっちをかじりこっちをかじりだから、広く浅く知識は持ってるよ。それこそ陰陽道から西洋魔術まで」
「ぅゎオカルトマニアっょぃ」
こんのすけから思わず零れた言葉に彼女はくすりと笑う。そうして体の位置を決めて丸くなった。
「そんなわけでやる気はないから。政府も、
もっと真面目にやればいいのに」
じゃ、お休み。そう言って、自分を抱き締めるような格好で眠りについた。

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