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異能審神者の憂鬱
君を守る、その為ならば
「ああ、小狐丸くんありがと……ってわあ!?傷増えてる!!」
しかも首、なんで!?と叫ぶ燭さんと固まったルナさん達を見て苦笑する。なんて言うか、手入れ部屋(審神者用)がこい、って感じだよね。
「自分で切った。こぎさん、止まりそうになかったから」
「また……そういう無茶を、する」
山さんが責めるように俺を見る。それに苦笑を返して口を開いた。……いやぁ、だって。
「君らは俺が大事だから、俺を人質に取れば何もできないから。……そういうの、不便だと思うけど」
縛り付けているみたいで嫌だしね、実は。誰も束縛せず、誰にも束縛されないことを望んでいた。何よりも想いを向け、誰よりも心の底から愛した、あの子達のためだったけれど。
「刀というのは、存外主に執着するものでな」
ルナさんが口を開き、そう言った。目を向ければ彼は笑みを浮かべ、しかし目はまったく笑わないまま(怖い)、続けた。
「自らを扱えるに足り、かつ心の優しい主であれば、通常よりも思い入れるのは当然であろう?」
「………そっすか」
あれ、俺神隠しフラグだろうか。え?これ倒壊できるんだろうか。てか、ん?神隠しだったらもっと可愛い審神者の方が良くね?……と、混乱(錯乱)してみた。でもたぶんルナさん、俺が神隠しされたらいの一番に自殺するだろうってわかってるよね。だから目が全然笑ってないんだよね。
手当てを終えた燭さんはため息をつき、そっと俺の髪を梳いた。
「本当……神隠しにしてしまいたいよ」
「それ言っちゃうんだ?」
思わず笑った。それ言っちゃうんすか燭さん。全国の刀剣達と仲の良い審神者達が、心の底で恐れていることを。笑うしかないじゃないですかやだー。
言っちゃうんだ、変なの。そう言いながら、
俺はくすくすと笑っていた。

神隠し。政府が頭を痛める、ブラック本丸に次ぐ問題の1つ。刀剣男士達が主である審神者を過剰に愛した結果起こるもの。本丸ごと消えてしまうため、捜索されたことは一度もない。今まで、2ケタ以上もの審神者が被害にあっているという。
その事を知らない死織ではない。しかしそれでも「神隠ししてしまいたい」と言われて笑っていられるのは、彼らがやらないことを知っているから。
「別にやっても良いけど、後が大変よ?燭さん」
「………だろうね。僕らが神気を注いで不死にする間もなく、主は首を切るだろうね」
「あら、お望みなら本体で切腹してもよろしくってよ?」
あれ痛そうだよね、最期まで「生きてる」って実感できそう。
笑顔でそう言う主に、刀剣達はため息をついた。……警戒することも怯えることもしない死織の反応が、ほんの少し嬉しかったけれど。
「でも、まぁ……゙家族゙が消えないなら、それもありかな」
ふと苦笑して、彼女はそんなことを呟く。条件付きで実行しても良いことを示され、しかしその条件に彼らは皆痛そうな顔をした。それを見て、死織は苦笑を深めて肩をすくめる。
「そろそろ慣れない?俺はそんなに気にしてないんだし」
「………慣れていいもんじゃ、ねぇだろ」
かろうじて同田貫が反論すると、それもそうだけど、と彼女は目を細めた。
「哀れんでくれるなよ。うっとうしいから」
「……………っ」
「すべてを諦めた。あの時、諦めて審神者になれと言われた時に、生きることは罰なんだって。俺が生かされたのは、最期の時の会話を何1つ覚えていないからなんだろうって。生き地獄なんて、慈悲深すぎて涙が出る」
だから、こんな状況くらいなんでもないのだと。これくらいの苦しみや痛みなら、今までさんざん味わってきたのだからと。
「だから、気にしてくれるな。哀れんでくれるな。俺の゙家゙はここで、゙家族゙は君達だ」
それで充分なんじゃない?
死織は笑ってそう言った。いつも通りの、子供のような無邪気な笑みで。彼らは息を吐き、負けた、というような笑みを浮かべた。

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あきゅろす。
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