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異能審神者の憂鬱
衝突
「主様ー?あーるじーさまー?」
ぱたぱたと本丸内を走りながら、乱は死織を呼ぶ。中庭で彼女を発見すると、その周りには誰もいなかった。そのことに、首をかしげる。
「主様っ」
「うぃー?おお、乱ちゃんか」
乱の呼びかけに振り向き、死織は笑った。乱は主のそばに走り寄り、その手を繋ぐ。
「今日はついて行かなかったの?」
「あー、今日は違うん。資材はあって困るもんじゃないから、遠征に行ってもらったんよー」
遠征だと俺邪魔じゃん?だから。なるべく早く帰ってくるってー。
のんびりと空を見上げながら死織は乱に説明する。ふーん、と相槌を打ちながら乱は周囲に意識を向けた。今安定しているとは言っても、心に傷を負う刀剣達だ。いつ、審神者の命を狙うとも限らない。―――自分達が、そうだったように。
ほんの少しだけ指先に力を込め、乱は主の手を引く。
「主様、こっちに来て?ボクの兄弟達を紹介するよ!」
「……それ大丈夫なん?俺警戒されてない?」
乱に手を引かれ、歩き出しながら死織は苦笑して言った。それに少年は大丈夫!と返す。その根拠はどっからくるんだと思いながら苦笑を深めると、はっと体を強張らせて乱が構える。離された手を下ろし、死織は彼の視線を追った。廊下に立ち、こちらを冷たく見つめていたのは、一振りの太刀。
死織は瞬いて、口を開いた。
「江雪左文字さん、でしたっけ?」
確認するような呼びかけに、彼は目を細めただけ。代わりに乱がそうだよ、と肯定した。
「江雪左文字、主様に何か用?急ぎじゃないなら後にしてほしいんだけど」
隙なく身構えながら乱は言った。江雪はその言葉を聞いて、よりいっそう冷たい目で死織を見やる。
「………見目麗しい者をそばに置いて、満足ですか?」
「……………は?」
間抜けな声を上げ、死織はきょとんと瞬く。一瞬にして表情を凍てつかせた乱へ憐れむような視線を向け、江雪は続けた。
「どうせ人間は、見目の良い者しかそばに侍らせようとしかしないのでしょう?いずれ夜伽も、命ずるのですか」
「黙って!!」
鋭い叫びが空気を切り裂いた。驚きに目を瞠った江雪を、乱は怒りの込もった目で睨み付ける。小柄な体に溢れんばかりの怒気を纏わせ、彼は刀の鯉口を切った。怒りで震える手で柄を握り、乱は唇を噛む。……なぜ、なのだろう。
なぜこんなにも傷ついた主が、さらに心ない言葉で傷つけられねばならないのだろう。
「………取り消して。主様は、そんなことしない」
「わからないではないですか。人間は、信用などできな……」
「自分だけが―――自分達だけが傷ついてるみたいな言い方、しないでっ!!」
いつの間にか集まっていた16口の刀剣に向けて、乱は絶叫する。自分の兄弟も関係なく全員を睨み据えて、肩で息をしながら言葉を続けようとした、その時。
「はいはい。落ち着く落ち着く」
深呼吸どうぞー。はい、吸ってー吐いてー。
ぽんぽんと肩を叩き、柔らかな声で死織は制止する。のんきに言葉を紡ぐ主の手の温かさを感じながら、乱は目を閉じた。言われた通りに深呼吸して、肩の力を抜く。
「………主様、ごめんね?」
「んーん、大丈夫よー。乱ちゃん悪くないやん?だから気にせんでいいよ。今のは言いがかりつけてきたあっちが悪い」
はっきりと、江雪の言葉を「言いがかり」にした死織の乾いた対応に、乱は苦笑する。好かれようなどと思っていないからできる対応だった。きっと、いい笑顔で言ったに違いない。
「言いがかりと……言いますか」
「うん。この際だからはっきり言っとこうか」
見目がいいね、だから何?
今度こそ笑顔だ。しかも満面の笑みだ。だって目の前の刀剣達が固まった。何これ、面白い。
乱が噴き出すのを必死で堪えているのを肩の震えで察する死織。しかし言葉を止めることはしなかった。
「見目が良いことは特に重要視しないよ。だってよ?四六時中そばにあったら……殴りたくならない?」
「ぶふっ」
乱は堪えきれなかった。握っていた本体を落とし、乱は腹を押さえて笑う。
「な、殴りたいんだwww」
「うん。ルナさんとかたまにね、すごい殴りたい。距離が近いし顔がうるさい」
「顔、がwwwうるさいってwww何www」
地面に崩れ落ち、乱は笑いながら死織にツッコむ。しゃがんでその背をさすりながら死織は追い打ちをかけた。
「だって顔整いすぎなんだもん。常にキラキラしいっていうか顔に擬音つきまくりというか。
うるさいよね」
「あはははははっ!!」
乱、撃沈。しばらく大笑いしてむせた。トドメを刺した死織は手を貸して乱を立たせ、鞘に短刀を収める。固まったままの彼らへと振り向いて、というわけで、と口を開いた。
「侍らせるとか夜伽とかは興味ないんで。あぁ、もちろん君達にも興味はない。殺しに来てくれるんだったら興味持ってあげてもいい」
バッサリと切り捨て、息を飲んだ彼らに背を向ける。乱の手を引いて遠征から帰る三日月達を迎えに行った。

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