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異能審神者の憂鬱
恐れ
とてとてと廊下を歩く死織の足がふわりと浮く。特に気にした風もなく腕を自分を持ち上げた蜻蛉切の肩にかけて体を安定させると、その顔をのぞき込んだ。
「どー思う?」
「……安定、はしているようです」
「俺もそー思う。でも、心を開くのに時間かかりそうだねー」
まぁ別にいいけど、と死織は言った。無理やり主と認めさせようなどと思っていないし、別に認めてもらわなくても一向に構わないのだ。逆に死織的には刃傷沙汰はばっちこいなのである。積極的に寝首を掻きに来てほしいのだ。今現在三日月達に添い寝をしてもらっているが、それだって大人数で行けば簡単にクリア出来る。だから彼女は内心ワクワクしているのだ。
ごく自然な動作で死織の髪を梳いていた山姥切は、ふと視線を感じて後ろに目を向ける。そこにいた一振りの短刀は挑むように目を合わせ、審神者に背を向けた。彼は数回瞬いて、自分以外の刀剣に目をやる。そんな彼の頭上から声が降ってきた。
「なんかおったね。なんとなくわかった」
「………短刀の小夜左文字がいた」
主の独り言のような言葉に山姥切は答える。そーなん、とどうでもよさそうな声音で彼女は返事。ため息をついて蜻蛉切の肩に顔をうずめた。
「………世界が、辛い」
ぎゅっと服を掴む手に力を込める。その言葉に刀剣達は唇を噛んだ。呟かれた声の弱々しさが、彼女の内面を映し出しているようで。
死織が寝る時に誰かの体温を求めるのは、恐ろしいからだ。突然奪われる温もりの儚さを、彼女が知っているからだ。何もかもを諦めたから、せめてこの手の中にあるものだけは、こぼれないように抱き締めていたいからだ。
わずかに震える死織の手を、そっと誰かが包み込んだ。

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あきゅろす。
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