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異能審神者の憂鬱
朝の光景
ごそりと隣で体温が動いて、蜻蛉切は覚醒した。目を開けると、死織が眉間にシワを寄せて何かをぶつぶつと呟いていた。抱き寄せればふっと体の緊張が抜け、温もりを求めるように擦り寄ってくる。
最初の頃は1つの部屋に全員が集まり雑魚寝していたが、最近では彼女が教えたじゃんけんで勝った者が一緒に寝ていた。回数を重ねるごとに白熱してきていて、人数が増えたら血を見そうだと蜻蛉切は思っている。
猫のように丸くなりながら自分の胸元に擦り寄って来た主を懐に抱え込む。嬉しそうに口元を緩めた死織を見て蜻蛉切も笑った。日を追うごとに穏やかな眠りにつけるようになった彼女だが、最初の頃は寝付きが悪かった。眠ってもうなされることが多く、ある時は悲鳴を上げて飛び起き、そのまま泣き出したこともあった。慌てて近寄った彼らの耳に、うわごとのような言葉の数々が入ってきたことを覚えている。
「置いて逝かないで」
「独りぼっちにしないで」
「会いたい、帰りたい………!」
悲痛そうに、そう言いながら嗚咽をもらす主を見て、一番近くにいた小狐丸が腕を掴んで引き寄せ、かき抱いた。すがり付くように背中に腕を回し、死織は彼に泣きながらしがみつく。繰り返し1人にはしない、置いては逝かないと言い続ければ、ようやく落ち着いて泣き止み、気絶するように眠りについた。
その時のことを思い出し、蜻蛉切は死織の前髪をそっとかき上げる。くすぐったそうに身じろいだ彼女はぼんやりと目を開けた。ぱちぱちと瞬きを繰り返し、焦点が合う。
「……うぃ。おはよう、蜻蛉さん」
「おはようございます、主」
ふわりと笑った死織に蜻蛉切も笑顔を返す。その日最初の笑顔もあいさつも、一緒に寝た者の特権だ。
死織はごそごそと布団から這い出ると、のびー、と体を伸ばす。
「うあーよく寝たー……今日どうだった?」
「一瞬眉間にシワを寄せていましたが、それ以外は何も」
「そか。ありがとね」
死織はふわりと笑う。
寝起きの穏やかな時間は、彼女自身が寝ている間のことを確認することで終わりを告げる。これから離れにある審神者の自室に帰り、着替えて朝食をとりに広間へくるのだ。
とてとてと歩いて襖を少し開け、死織は振り返る。
「それじゃ、またあとでー」
「はい。ではまた、主」
返答を聞いた死織はひらりと手を振って、蜻蛉切の自室を出て行った。

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あきゅろす。
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