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異能審神者の憂鬱
審神者の名前
半眼になった刀剣の視線を受け、こんのすけは戦々恐々としていた。彼らの中心に座る主は、話を聞いてから遠い目をしたまま崩さない。相当帰ってきたくないようだった。
「………こんのすけとやら」
「は、はいっ!?なんでしょう三日月宗近様!」
天下五剣たる彼の神格は、他の刀剣達のさらに上をいく。そんな彼に睨むように見つめられ、こんのすけは震え上がった。
「そやつらは、主が引き取らねばならんのか」
「は、はい。ちょうどよく刀剣数も少ないですし、審神者様は鍛刀ができ、ひっ!!」
「つまりは計画的という訳だなぁ?」
同田貫が鯉口を切る。せっかく自分達が穏やかな日々をと思ってやっていれば、政府はそれを邪魔するかのように厄介事を押し付けてきた。まさかこれからこんなことが続くわけではあるまいな、とまだ冷静な頭の片隅で考える。
勢いよく抜刀しようとした同田貫の手の上に、ぽんと小さな手が置かれた。殺気が嘘のように消え失せて、白刃は鞘に戻される。―――ここ一週間、手を繋いだり繋がれたりした体は、その手の持ち主が誰なのか、見なくてもわかるようにしてくれていた。
諦めたようにため息をついて、不機嫌そうな声が発せられた。
「よかろ。審神者No.41267番、審神者名:しおり。政府からの命、確かに承った」
「あ、ありがとうございます!では、5日後にこられますので!!」
手入れはこちらでやっておきます!の言葉を最後に、ぽんっとこんのすけは消える。それと同時に審神者は、目の前の机に額を叩きつけた。
ゴンッ
「痛い」
「当たり前だからね!?」
何してるの!?と燭台切が主を引き起こす。
夢なんじゃないかと思って、と額をさすりながら彼女は言った。
「でも残念なことに現実だったんだわ。頭の芯まで痛みが響いたんだしー」
「せめて頬をつねるくらいにしてほしかった」
びっくりした、と若干顔を青くした乱が呟く。ごめんねと笑いながら彼女の手が乱の頭を撫でた。―――頭部は急所。冗談ではなく音を聞いて肝が冷えた。額を赤くした主は、あははと笑う。
「まーこれからちょっち忙しくなるで。歓迎会しようか、買い出し行って……」
「主。あっちの刀剣の話聞いてた?」
「ブラックなんやろ?」
ブラック本丸が摘発され、そこにいた刀剣はすべて彼女の本丸へと引き取らせることを政府が決定した。出陣をしたことで、三日月達とは和解したと思ったらしい。いや実際にそうなのだが、余計なことをしなければよかったと心の底から彼らは思った。けれど現実問題として、出陣を行いノルマをクリアしなければ資材は増えないし食料品なども配給されない。自分達はともかく主を飢えさせる訳にはいかないのだから、出陣しないわけにはいかないのだった。
「……主」
山姥切が静かに彼女を呼ぶ。彼女の黒い瞳は彼を捉えた。
「何かね?」
「名は、どう書く?」
審神者としての名は本名(真名)とは違う。
「しおり」と音だけを聞いて、彼は字が気になったようだった。ぱちくりと瞬いて、彼らの主は苦笑する。
「死を織る、と書いてしおりと読む」
不吉な文字の連なりが、発せられた。

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