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異能審神者の憂鬱
昏い願い(くらいねがい)
叫びが響き渡るのと同時に敵がすべて灰に変わった。前線で刀を振るっていた山姥切と同田貫、蜻蛉切が後ろを振り返る。そこにあった光景に目を見開くと3人共に顔を見合わせ、走り寄った。
へたり込む審神者の女。彼女の周りには小狐丸や三日月、乱がいて、燭台切は本丸の方へ走って行くところだった。
何があった、と山姥切が口にするより早く、彼らの目は理由を見つけた。審神者の左手に握られた刃物と、切り刻まれた右腕。その腕から伝い落ちる、赤い血液。
そして、自らの血で作った海に崩れ落ちながらも―――まだ意識を保っている、彼女。
昏い殺意を瞳に宿し、けれどそれを彼らにではなく自分にのみ向け、三日月に抑えられた左腕を取り戻そうと弱々しくもがいていた。
「………離して」
「それ以上やれば死ぬぞ」
「君に関係ない。別によかろ?」
当たり前のように、そうするのが自然だとでも言うように彼女はもがく。そこにはただ、自分を殺そうとする意思のみが感じられた。
「いいじゃん、別に。……ようやく、自分を殺す決心がついたんだから」
ようやく、やっと。小さくうわ言のように呟く彼女は、笑う。
「綱渡りは失敗した。暗闇の中、命綱もなしにやっていたのだから、落ちたら闇に飲まれるだけ。狂気と正気の間で揺れていた意識は、後は狂気に犯されるだけだ」
「………っ」
「逝かせて。でなければ殺して。置いて逝かれたから、どうか逝かせて。帰る場所なんて、もうどこにもないから。待っていてくれる人もいないから。…だか、ら……」
血が流れ過ぎて、意識を保っていられなくなったらしい。虚ろな瞳をさ迷わせて、最後の願いを口にした。
「独りぼっちのままに、しないで……?」
自分で支えられなくなった体が倒れていく。いくつもの手が彼女に伸ばされて、出血で冷え切った体が誰かの体温に受け止められたのを感じて、彼女は目を閉じた。

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