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異能審神者の憂鬱
叫び
あまりにも見ていられなかった。淡々とした動作で腕を切る行為も、首を落とされた敵を見て浮かべた笑みも、この現象を起こしている彼女の言葉も。
だから、彼は――――小狐丸は、刃物を持つ彼女の手首を掴んだ。
「もう、いいです…もういいですから……っ!」
「……………?」
きょとんと、幼さの残る顔で彼女は小狐丸を見上げる。すぐ心配そうな顔になって、顔をのぞき込んできた。
「どっか痛い?」
「………っ」
「そんな顔してる。大丈夫?」
「それ、は」
それはこちらのセリフだと、頭の片隅で小狐丸は思った。彼女の鎖で縛られた敵はあらかた片付けられ、結界の修復ももう少しで終わる。幸い反応が早かったせいか、こちらに被害はまったくと言っていいほどなかった。けれど。
小狐丸の手から力が抜け、彼女はそれを見越していたかのように再度刃を腕に当てる。彼がもう一度止めるより早く、今までにないほど腕が深く切り裂かれた。
濃厚な血の臭いと、上がる血飛沫。叩きつけるように、言葉が叫ばれた。
「<貫け>!!」
あちこちから上がる鬼の断末魔。その濁った音に負けないくらいの声で、彼女の言葉が響く。
「過去変えて何になるの?まだいい死に方した人が、もっと悲惨な死に方するかもしれないのに?過去を変えたら幸せになれるの?本当に?」
泣きそうになりながら、審神者は言葉を重ねる。
「幸せって何?未来って何?今を生きていればいいんじゃないの?過去の苦しみや悲しみを消したら、消してしまったら」
ぐっ、と刃物を持つ手に力が込もる。赤に濡れた刃を振り上げて、悲痛な声が空間を震わせた。
「支えてくれたあの子達が消えてしまったら―――俺の存在なんて、意味ないのに!」

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あきゅろす。
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