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異能審神者の憂鬱
異能
いち、に、さん。
口の中で数えながら、右腕に線を刻んでいく。薄く浅く、深く切りつけないように気を付けながら。本来なら絶望をもって深く切りつける行為なのに、と思いながら顔を上げた。俺の言葉は術のように発動し、先に侵入してきた鬼も後からきた鬼も等しく縛り上げる。
その言葉通り、緋色の鎖で。
「……………」
無言で、線を増やす。赤い液体は腕を滑り落ち、地面に滴って染み込んでいく。アスファルトには染み込んでいかなかった、人間の体液。ゆっくりと這うように痛みが腕から二の腕、肩へと上がってくる。カッターを握る手に力を込め、でも慎重に、皮膚を裂く。
「ちょっ……何してるの!?」
「前向かんと死ぬで、お兄さん」
眼帯さんに声をかけ、やや深く切る。少し量の多い赤を見て、別の言葉を紡いだ。
「<貫け、緋き刃。その鋭さは憎しみの如く>」
鎖の戒めを解いた鬼の足元から白刃が出現し、そのまま首を切断する。目を細めてそれを見て、思いのままに口を開いた。
「……うらやまし」
誰かが振り返る気配がしたけど、そんなことは気にならなかった。無意識に強く押し当てていた刃を、そのまま横に引こうとして―――
手首を、掴まれた。
「もう、いい」

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