[携帯モード] [URL送信]

トリップ小説 完結
お花見へ行こうA
いつも1人で来ていた秘密のお花見所に、今年は大人数で来ている。それがなんだか感慨深くて、今日は箍がはずれたように笑っていた。少しだけならとお酒も用意したから、なんだか宴会みたいだ。俺は呑まんけど。
いつも通りにお父様の膝の上に座り、馬鹿騒ぎするみんなを見るともなしに見ていた。ちらりとお重の中身を確認すれば、3分の2くらい消えていた。お花見ってすごいな。
「食べていますか?春織さん」
「ゆっきーの食いっぷり見てるだけで俺は満腹だよ」
「ああうん、否定できない………」
右にさっちゃん、左にあけっちーを侍らせて会話する。あけっちーは最初よりは発狂しなくなった、かな?さっちゃんはだいぶ雰囲気ゆるっゆるになったよね。穏やかになった、というか。それはお父様にも言えることだけど。
自分が誰かを変化させられるような人間だなんて思っていなかった。自分と関わったことで誰かが変わるだなんて思っていなかった。平々凡々、普通を絵に描いたような女だと言うのに。
けれど、俺は俺以外にはなれないから。自分でない者には、なれないから。だからこれでいいんだと思うことにした。そして、
君達に、感謝を。
「そろそろかなぁ………」
ぽつり呟いたその声は、桜吹雪の音に消された。

桜吹雪が止んだその場所には、神が立っていた。それを見て俺達は悟る。
―――帰還の時が、来たのだと。
「っ、」
俺様は何かを言おうとして、隣にいる春織ちゃんを振り返った。けれど、その表情を見て、頭が真っ白になった。
春織ちゃんは、寂しそうに、悲しそうに、泣き出しそうに、
笑って、いた。
「はるおり、ちゃん」
「お別れだよ。俺はここに残る。誰にもついては行かないし、誰にも連れ去られはしない」
―――でも、
「君達に、最大限の感謝を。人と別れることがこんなにも辛いと、思わせてくれてありがとう。俺に、本当の心を取り戻させてくれてありがとう。
今まで一緒にいてくれて、ありがとう」
それはきっと、俺が言いたかったことだ。俺こそが言いたかったことだ。
「春織ちゃん、ありがとう。俺の方こそ、本当に、ありがとう………!」
本を勧めてくれてありがとう。
たくさん話してくれてありがとう。
俺のこと、「友達」だと思ってくれてありがとう。
ありがとう、ありがとう、ありがとう………!
この思い出はきっと、俺様の一生の宝物。
大切にするね、春織ちゃん。

「……世話になった。礼を言う」
「感謝する」
「……Thank You、春織」
「ありがとな、春織!」
みんなが口々にお礼を言ってくれる。春織、とお父様に呼ばれて振り返れば、しっかりと目を合わせて微笑まれた。
「礼を言う、我が娘よ」
その一言で、ついに涙腺が決壊した。
恥も外聞もなく泣きじゃくれば、みんなが苦笑してなぐさめてくれた。ただ、さっちゃんが一緒になって泣いてくれたのは驚きだったけど。
「……良いのか?」
「おうよ。もう一生分の思い出作ったからな」
「わかった。お前が、それで良いなら」
神様が手をゆっくりと掲げる。俺は彼らへと振り向き、とびっきりの笑顔で言ってやった。
「みんなありがとう!大好き!!」
目を丸くして、そのあと全員、苦笑した。
神様が手を降り下ろすと同時に、みんな一瞬で消えてしまった。神様まで消えてしまって、俺は1人、その場に残される。
涙がこぼれそうになって空を見上げれば、
抜けるような青空に桜吹雪が舞っていた。


     


[*前へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!