トリップ小説 完結 その理由は 「I Love You!!」 「のーさんきゅー」 「なんでだよ!!」 その日も春織は政宗の告白をかわしていた。うまい具合に矛先を別のところに向けさせ、スタコラサッサと逃げる。逃げた先は孫市のところだ。 「からすどもも大変だな、お前が相手では」 「何度でも言わせてもらおう、彼らの世界に行く気はない!!」 ふんっと鼻息荒く春織は宣言する。が、苦笑を浮かべた孫市がその宣言を斬り捨てた。 「無駄な抵抗になる、諦めろ」 「むー!!」 唸りながら地団駄を踏む春織を、乾いた笑いを浮かべながら孫市が見ていた。 自分を囲む人間を見て、政宗はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。それが癪に触ったのか、三成の眉間にシワが寄った。 「……何がおかしい」 「いや?揃いも揃って自分の想いを伝えられねぇ野郎共だな、と思っただけさ」 「貴っ様………!」 三成は力の限り政宗を睨み付ける。 春織への想いが本人にバレてから、殊更に表現する者としない者とに分かれた。表現する者としては政宗は過剰で、隙を突いては春織に愛の言葉を囁く。春織は取り合っていないが、それでもめげずに想いを伝え続ける。 それが、表現しない者からは酷く気に障るのだ。 「アンタらも素直になったらどうだ?意外と乗ってくるかもしれねぇぜ?」 「私には私のやり方がある。貴様に指図される謂れはない」 「われはアレが面白いから付きおうておるだけよ。われに欲はない」 ヒヒッ、と大谷はいつもの調子で笑った。それに片眉を跳ね上げ、政宗は訝しげに確認する。 「それがアンタの本音かい?」 「さてナァ。われにはわからぬ、ワカラヌ」 「………これだから策士って奴は嫌いなんだ」 吐き捨てるように言って政宗は顔を歪める。愉しげに笑う大谷はちょいと指を動かした。 途端、クッションが1つ政宗の後頭部に命中する。 「てめぇっ!」 「ヒヒヒッ!そうして吠えているが良かろ。 春織を連れ帰るのは賢人殿よ」 「それだけはさせねぇ。あいつは俺のモンだ」 双方、一歩も譲らずに睨み合う。そこへゆらりと近付く、影。 「誰が、誰の、ものだって?」 『……………』 3人は押し黙り、ゆっくりと声がした方へ顔を向ける。 そこには、笑顔の後ろに般若を背負った春織がいた。 「君達とは一度、膝を突き合わせて話し合った方が良いらしいねぇ?」 「Oh、honey?お手柔らかにお願いするぜ」 「とりあえず伊達ちゃんは黙ろうか」 黙れ殺すぞ、と副音声が聞こえてきそうな笑顔で春織は声を発する。静かになった政宗を見て満足そうに頷き、視線を三成と大谷に移す。 「まず大前提として、俺は君らの世界に行く気はないよ。なぜかと問われれば、君達の枷にはなりたくないからだ」 「………枷?」 三成が不思議そうに発言する。1つ頷いた春織は続けた。 「俺は平和ボケした平民だ。そんな人間が戦国時代なんかに放り込まれてみろ、1人なら確実に死ぬ。保護してもらうにしたって、君達の負担になるだけだろう。俺は君達の手を煩わせるつもりはない」 軽く息を吐き、春織は薄く笑った。 「君達には君達の道があるだろう?そこに俺はいらないよ。ただ、ここにいる間だけは楽しんでいてほしいんだ。ここは、この世界は、君達が築き上げたものだから」 この平和は、君達が築いたものだから。 そう言って、彼女は笑ったのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |