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トリップ小説 完結
彼女への想い
「そうだ、本屋行こう」
「我もつれて行け」
「私もつれて行け」
「俺様もついてっていい?」
唐突に春織が発言し、それに元就、三成、佐助の順で応える。
春織はにやりと笑った。
「荷物持ちするんならついて来ていいよ?」
「荷物持ちくらいするよ!」
『なぜ私(我)がやらねばならない』
「なぜ君達は嘘でも持つと言えないのか。さっちゃんありがとー、好きな本二冊買っていいよ」
「ホント!?ありがと!」
「そこの2人は一冊な。はい、準備して玄関に集合!」
パンパン、と春織は手を叩いて自分の部屋に姿を消した。佐助は嬉々として、残り2人は渋々と自分達の部屋に行って現代の服装に着替える。3人が玄関に向かうと、すでに春織の姿があった。
「んじゃ、本屋にレッツゴー!」
「おー!」
佐助と春織だけがテンション高く出掛けたのだった。

静まり返ったリビングの中で、クク、という笑い声がやけに大きく響いた。
「さて、春織さんは護衛と共に行ってしまいました。私達はどうしましょうか?」
明智光秀がゆらりゆらりと揺れながら発言する。それに対し鼻を鳴らし、ソファに座る伊達政宗が足を組んだ。
「Ha!腹の探り合いでもしようってのか?受けて立つぜ!」
「黙れ、伊達の小童」
こちらは椅子に座り、同じく足を組んだ織田信長が短く言う。Ah?と政宗が身を乗り出すのを制し、片倉小十郎が鋭い眼光で全員を見渡した。その後、明智に視線を固定する。
「明智、何が言いてぇ」
「ククク、そんなことは決まってますよ」
春織さんのことですよ、ねぇ?
ゆらりゆらりといまだ揺れながら、明智は言い放った。言の葉が舞い落ちると共に、沈黙が満ちる。
「わかってますよ?ここにいる武将達は皆、
多かれ少なかれ春織さんに入れ込んでいることは」
もちろん、私も含めて。
明智は揺れながら笑う。
――――何かあれば迷いなく拳を振るい、
からりと笑って、何人もの人間を踏み台にしてきた彼らを恐れる様子もなく。ただただ、家族のように接してくれる。
忘れそうになるのだ。己が国主であること、
側近であること、忍であること、この時代で言う、殺人者であること。ただ1人の人間に成り下がった時、彼女だけが道標であること。それを、全員がわかっている。
例えば、魔王は彼女の前ではただの父親になる。「お父様」と春織が呼ぶその声で、彼は人間へと成るのだ。
「愉快ですねぇ、不思議ですねぇ。あの方は底無しに私達を溺れさせてゆく。それも、自覚がないままに」
ああ、恐ろしいですねぇ。
そう、恐ろしいのはそこなのだ。彼女にはこれっぽっちも自覚がない。そもそも、武将達をほだしてやろうという気持ちがない。彼女は死にたがりで、だからこそ味方を作ろうとする動きがまったくなかった。
その、いつも通りに振る舞うところを、武将達は見初めたのだ。
「………僕は、あちらへ帰る時、彼女を連れて行くよ。彼女が嫌がっても連れて行く。そのまま僕付きの小姓にして、ゆくゆくは三成君か吉継君の室に入れたいと思っているよ」
「やれ、われの室に、とな」
それは愉快よ、ユカイ。
竹中半兵衛がため息をつきながら話した計画に対し、大谷は引きつり笑いをこぼす。それに対し、過剰に政宗が反応した。
「Ah!?それは許さねぇ!あいつは俺のモンだ!!」
「誰が貴様ら小童どもにくれてやるものか。
あれは魔王の娘よ、欲しければ奪って見せぃ!!」
信長が気迫と共に言い放つ。その場にピリピリとした空気が漂った。クツクツと笑い、
明智がゆらりと揺れる。
「私がいることも、忘れないで下さいね?」
「そも、人がいない間に人のことを物みたいに言うのはよろしくないと思うの」
その場に響いた彼女の声に、全員が凍りついた。

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あきゅろす。
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