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トリップ小説 完結
神の懸念(幸村視点)
春織殿が居間から出ていったあと、神はスッと表情を改めた。春織殿に向けていた柔らかなものから、威厳ある表情へ。
「春織はああ見えて酷く傷つきやすい。なるべくなら俺は出てきたくないんだ。だが、お前らがあいつを傷つけると言うなら、俺は全員の婆裟羅を取り上げることも出来る」
「ならば何故あいつを選んだのだ。あいつでさえなければ誰でも良かったのだろう?」
石田殿が神に問いかける。傷つけるのが嫌だったのなら、春織殿以外の元に落とせばいいだけの話だ。何故、そうしなかったのか。
「それでは駄目なんだ。人との付き合い方を忘れてしまった春織が、もう一度それを思い出すためにお前らを春織に預けたのだから」
それから神は語った。今の春織殿の精神状態や心のうち、生来刃物恐怖症であることや人間嫌いであることなど。それを話すために春織殿に席を外してもらったのだとわかった。
「あいつはすぐに心がぐらつく。だから過度に刺激を与えないでくれ。なるべくなら一気に10人も預けたくはなかったんだが、こちらにも事情があってな」
「……俺達はいつ帰れるんだ?」
「1年だ。それまで羽を伸ばすんだな」
政宗殿の問いにあっさりと答え、神はひらりと片手を振る。
「長期休暇だと思え。こちらでもなるべく援助はするし、お前らは春織に迷惑をかけないことだけ考えろ。俺が言いたいのはそれだけだ」
皮肉げに笑った神は椅子から立ち上がる。そしてもう一度ひらりと片手を振って言った。
「じゃあな、俺はもう帰る。春織によろしく言っといてくれ」
そうして、神は陽炎のように消え失せた。

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