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審神者日記 完結
彼女の話
僕らは主が変わるたび、僕らを救ってくれた彼女の話をする。どうしても忘れられないあの穏やかな日々を、声に出し言葉にして、僕らは主に語って聞かせる。何度も聞いたよ、そう笑う主に、じゃあもう一回、と僕らも笑って話す。
「仕方ないなぁ。まぁ、お前らの話してる時の顔、嫌いじゃないからな」
今の主の彼はそう言って笑う。どんな顔?と聞けば、穏やかないい顔してるよ、と返された。そうか、彼女のことを話すとき、そんな顔をしてたんだ。
僕らにとって彼女とは、破天荒で、キャラがブレブレで、明るくて、泣き虫で、読書家で―――僕らを人らしく扱ってくれた、大切な恩人。でも彼女は、恩人ではあっても主にはなれない人だった。歴代の主達を見てきて、そう思う。彼女は主として、きっと何かが足りなかったんだと思う。それをわかっていたから、僕らに「役不足」と言ったんだろう。僕らの主という肩書きは、彼女には重すぎたんだと、僕は思う。
「その恩人はさ、たぶん自分じゃなくてもお前らが前を向けるようになってほしかったんじゃないかな。じゃなきゃ、自分を慕ってくれる奴等を置き去りにはしないって」
「そう、かな……」
「おう。ある日突然いなくなったんだろ?お前達と見習い残して」
そう、彼女は煙のようにいなくなったのだ。来た時と同じように突然に。それが少し悲しくて、すごく悔しかった。お礼を、言えてなかったから。だから僕らは新しい主に誠心誠意仕えることで、その悔しさを紛らわした。
彼女は去るとき、なにも残さなかった。残したのは、僕らの記憶だけ。だから僕らは彼女を忘れないように、今日も主に語り聞かせる。
「ねぇ、主。僕らを助けてくれた恩人の話なんだけれど、聞いてくれるかい?」





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あきゅろす。
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