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「分かった。千佳広、ごめんな」
ほら、新吾は手を差し伸べちゃうんだ。優しいから、野球に関わる人は大事にしようとするから…。
ほんとは行くなって言いたい。俺と食えって言いたい。でもここでそれをいえば新吾は困った顔してしまうから…。
「……いって、らっしゃい…」
それしか言えないんだ。悔しい、憎い、大池の…あの勇気に嫉妬する。いえば新吾は真剣に受け止めてくれるかもしれないけど、それじゃダメなんだ。好きになってくれなきゃ…俺がツラい。
だからいえない。唯一の友達というポジションに甘えてしまう。でも俺は、そんなに心の広いやつじゃないから…早く帰ってきてくれよ…。
* * *
俺が望んでも新吾はすぐには帰って来なかった。あれから毎日、大池とお昼を食べてる。休み時間も暇があれば向こうが押しかけてきて、今じゃ俺はかやの外。
なぁ新吾。話を聞いてくれるやつだったら誰でも良かったのか…?俺は新吾じゃなきゃダメなのに、新吾は誰でも良かったのか…?
「っ……野球バカ…」
「バカで結構」
「へっ!?あ…もう終わったのか?」
「まぁ…てかなんか怒ってる?」
「別に」
怒ってるよ。大池と楽しそうにはなすお前にも、気持ちを伝えずにただ見てるだけの俺にも。
「お前…大池のことどうするつもりだよ」
「え、茜か?」
あ…かね?お前…ついこの間までは大池って呼んでたじゃんか。なんでそんな笑顔でそいつの名前呼ぶんだよっ!!
「悪いやつではないんだ。野球も好きみたいだし…」
「っ…俺だって…野球、好きだ」
違う。野球をしてるお前が好きなんだ。
「そうか!だよな、いいよな野球は」
違うよ新吾…気づいてよ。俺はお前が好きなんだ。会ったときからずっと…ずっと。
「ホームラン打ったときは体が熱くなるよなー」
そうやって楽しそうにはなす新吾が好きだ。俺はお前と目が合うだけで体が熱くなる。
心が…暖かくなるんだ。
好きだ
好きです
愛してます
この気持ちを今、素直に言えたらどんなに楽だろう。大池のようにめげない心が欲しい。好きだと言いたい。
─でもいえない。
「ほんっとお前は最高のダチだな!」
お前のその言葉に俺はズキンと心が痛む。
お願いです、俺をみて。
お願いです、嫌いにならないで。
お願いです、俺を好きになって。
俺はこんなにも好きなのにっ…あなたは俺を見てくれない。
好きだよ…
好きだよ……
「好き、だよ………」
「俺も!野球が大好きだっ」
この気持ちが伝わることは、一生ない。
END…‥
たまにはバッドエンド
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