5 「全チャン、ちょーっと借りんねー」 「はぁぁ、もう…」 「ま、まぁまぁ、誰といるか分かってるだけいいじゃん、な?」 「Hとなんて、あまりよくないけどね」 それが普通の反応。永久のその声を遠くに聞きつつ、どこにいこうかとキョロキョロあたりを見回す全の手を流歌は握りなおし、こっち、と声をかけた。もうすぐ次の授業が始まる。次の時間は、確かあの場所は使う予定ではないはずだ。 翼ほど鮮明にではないがお気に入りの場所の時間割りをぼんやり思い出し、全をそこへ連れて行くのであった。 特別棟1の、5階。水や氷の能力者が使えるようにとプールが設備されていて、全は目をキラキラさせながらそのプールまで近寄った。 一年中使えるようにと水は綺麗なものに常に入れ替えられており、今ぐらいの時期になると水温も少しだけあげている。そのため、手を入れてみても凍えるほど冷たいということはなかった。 「入ってもいいですかっ!?」 「え、入んの!?水着はっ?」 「あ…えと、じゃあ足だけでも…!」 「はは、まーいんじゃん?俺も入ろーっと」 プールサイドの水を能力でサッサと払い、靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾を捲って足を入れる。温度をあげてあるとはいえやはり少し冷たい気もするが、楽しそうに足をちゃぷちゃぷ揺らす全に、そんな気持ちも暖かいものへ変わっていく。 流歌は遊ぶように能力を使って水を跳ねさせたり波立たせたりと動かし、全はキャッキャと喜んだ。 「凄いです!もっかい、もう一回!」 「はは、…凄くなんか、ないって」 「…流歌先輩?」 「これくれぇのことは能力者ならほとんど出来るようになるシ。水なんて、…氷より下だしさぁ」 全の賞賛の声に、なぜか流歌の笑顔は消えていき、そしてついには俯いてしまった。全はパタパタ動かしていた足を止め、ジッと流歌を見つめる。きっと大切な話しだとその空気から感じ取ったのだろう。流歌は全が何もいわないのをいいことに、自分を卑下した発言を繰り返し繰り返し、した。 「また怪我させてっし、もうどうしようもねぇよ俺。ほんと、ダメだよなー…」 「怪我は、僕が悪いんですよ…?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |