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そういえば、とキョロキョロ車内を見回す全に、つい呆気にとられてしまう。あんなことがあったのに、"好き" を返してくれたどころか、もはやあの時のことは気にもとめてないようだ。ちょっと呆れてしまうが、それでもやはり嬉しくて。
流歌はどこかホッとした様子を見せ、翼はようやくいつものどこか意地の悪そうな雰囲気に戻った。
「彼はまた後日合流します。それとも…私がいるだけじゃ、ダメですか?全は楽しんでくれませんか…?」
「えぅ、楽しいよっ!僕、スッゴく楽しいです!」
「ならいいじゃないですか、ほっといて。めいいっぱい楽しみましょうね、全」
「はい!」
ニコニコ、純粋な笑顔を見つめる翼の笑顔はとても黒かったと、のちに流歌と雷火はこっそり語るのであった。
駅へついたみんなは車をおり、新幹線へ乗り換えた。全にとって恐らく初めての新幹線。流れていく景色の速さに感動しつつ、駅弁も買ってお昼も済ました。そして新幹線をおりたあとはタクシーに。雷火は2台呼ぶつもりでいたのだが、翼が全を膝の上に座らせることで一台での移動となった。
――ガタ、ゴンッ
「に゙ゃ!…痛い…」
「大丈夫ですか…?さすがにここらへんは舗装が悪いですからね、となりへどうぞ」
「あぅ、あい」
「全チャンちっちぇーから余裕ダネー」
タクシーはどんどんと山の中へ進んでいき、その車体はガタガタと揺れついに頭を天井へぶつけた全。涙目になりながら翼の膝上から、翼と流歌の間へ移り、頭をさする。何ともないようだ。
やがて本当に舗装すらされていない砂利道に入り、座っていることがツラく感じた…そのとき、大きな木々の中に大きな建物が見え、タクシーはようやく止まった。
「ここ…?」
「ええ、とりあえずおりましょう。最低な運転でしたね」
「ちょ、リーダー…。はぁ、まーいつもはオレの家の車ッスもんね…」
「今日は全チャンいっから公共の乗りもん使ったんだヨ」
「えと、ありがと、です?」
そこはお礼をいうべきなのか、よく分からない全はハテナを浮かべながら礼を述べ、大きな鉄の門の前に立った。閉まってはいるが鍵は開いているらしい。雷火が率先して開けて中に入り、そのあとを全たちはついていった。
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