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「楽しいかよ」

「うんっ、お部屋見るの好きっ」

「…よく見て、よく覚えとけ。その方が過ごしやすいだろ」

「ふぇ?」

「いんや、何でもねぇ」



 ニヤリ、と口角があがる。確実に何かを企んでいるのが見て分かるが、全は「お泊まりだもんね!」の一言で片付けてしまい、その火焔の様子に気づくことはなかった。ソファーに腰掛け、コーヒーを啜りながらちょこちょこ部屋の中を動く全を見つめる。

 好きにさせてはいるが、その目はどこか全を観察しているようで。ああ、もしここに永久や望がいたら、すぐにでも全を連れて逃げるだろうに。



「わぁ、本がある!お洋服ばっかだね、これ」

「勝手に見ていいぜ」

「ありがとぉ!僕もね、本持ってきてるんだっ。あとで火焔に見せてあげるねっ」

「…いらねぇよ…」

(本、読めってか、この俺が)



 ねぇな、と心の中で呟きつつ、興味津々といった様子でファッション誌を見ている全を見つめる。目に止まるのは、やはり右目を覆う眼帯で。火焔はツ…と指で唇をなぞりながら、その唇をゆるり、と弧を描くように持ち上げた。

 獣が獲物を狙う目ではない。既に捕らえ、これからどう料理していくか吟味している目だ。…そう、もう、ここは檻の中。火焔によって捕らえられたことに、果たして全は気づくのだろうか。







「…おい」

「なぁにっ?」

「昼、なに食いてぇ」

「んーっとねぇ、んーっと、…メニューないのっ?」

「ねえ。好きなもんいってみろ」



 お昼の時間になり、全をずっと観察していた火焔は、ようやく声をかけてきた。それに全はようやく散策を止め、火焔の横に座って何にしようかな、と考える。サッパリしたものがいい。そうなると、冷やし麺類か。



「冷たいうどんがいー!」

「注文の仕方教えるから覚えろ。次からは自分でやれ」

「…ぅ?食堂、いかないの?」

「部屋からは出んな」

「なんでぇ?」

「何でもだ、ぜってぇ出るな」

「変なのっ」



 ぷく、と頬を膨らましてそう拗ねる全に、火焔は目を細め、思案するように全を見つめた。しかし全に名前を呼ばれてハッとしたように意識を戻し、内線の使い方を教えていく。

 各トップは特別に部屋まで運んでもらえるのだ。軽く使い方を教え、全と自分のお昼を頼み、それがくるのを待つ。全は、凄い凄いと大はしゃぎだ。


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