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 初めてかもしれない。小雨は顔には出さなかったが酷くその言葉に感動を覚え、照れ隠しなのか自分の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。それを見ていた全が、ツンツンと髪を引っ張ってくる。



「…?」

「暑そう!ぎゅ、って縛らないの?」

「めんど」

「じゃあ今度僕がやるの!初めてだけど、ちゃんとやれるよっ」

「…ん、楽しみ、待つ」



 次、の約束。次が、ある。そのことに喜びを感じつつ、小雨は汗で張り付いた全の前髪をス、と指で横へ流した。そしてカバンの中をゴソゴソといじっている全を、不思議そうに見つめる。

 ジャン、と取り出したのは…。



「お茶!あのねっ、いっぱい飲まないとダメなんだよっ」

「…全、が?」

「んーんっ、永久がしてくれたの!あとこれもっ、首冷たくて気持ちいいの。小雨もするっ?」

「いい。オレ…平気、全、する」

「えへへ、お茶は一緒に飲もうね」



 トポトポトポ、と蓋になっていたコップへ注ぎ、どうぞ、と小雨に渡す。確かに喉が渇いていた小雨は、ありがたくそれを受け取り、一気に飲み干した。コップを返すとまた注ぎ、今度は全がコクコクと飲んでいく。間接キスだ。なんて頭の片隅で思いつつも、それ以上に思うのはこれらを用意させた永久のこと。


(…オカン、か)


 体育のときに見かけたときは、邪魔なやつだと思った。全と仲がいいのは自分だけでいいんだ、こいつらはいらない、と。しかし、全のためにここまで用意してくれたという永久に、小雨はどうしても母親の影を拭いきれなかった。

 全のそばにいる邪魔なやつ、から、全を心配する母親。小雨の中で、永久の地位が少しあがったのはいうまでもない。



「ぷは!冷たいの美味しいねっ」

「…ん」

「ねっ、ね、小雨はどうしていつもここにいるの?夏、暑いのに」

「…、空…好きだ、から?」

「お空?僕もお空好きっ」



 目を細めて空を仰ぐ。真っ青な空。綺麗で、見ていて飽きがこない。空が好きだから一番よく見え、一番近い屋上にいる…だけではなく、きっと、自身の能力が空だからというのもあるのだろう。

 全の言葉は、この本物の空に向けられたもの。それでも自分の能力を好きだといわれているようで、小雨は小さく、口角をあげた。







 ミーンミンミンと蝉がうるさく鳴いて、空からと床の照り返しで汗がダラダラになり、すっかり日陰もなくなってしまって。


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あきゅろす。
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